■サイドキッカーさんの口調等捏造。博多弁などない。



■■■■■

「踏陰ってモテそうだよねえ」
「は?」

ツクヨミこと常闇くんがおにぎりを前にして嘴を開けたまま呆然としている。鳩を豆鉄砲を食らったような顔とはまさにこのことだ。
こちら、福岡は博多のホークス事務所。
正午の巡回を終え、インターンの学生と遅めの昼休みをとっていた。
ホークスを含めた全員が揃うことは珍しい。ヒーローという性質上、休みをバラバラに取ることが多いし、俺たちサイドキックと学生で一緒になることは多々あっても、多忙なホークスは昼休みに外出することが多くなかなか揃わない。
奇跡的に都合のついた今日、どうせだからと事務所の休憩室で昼食をとることになったのだった。
そこで、冒頭の会話である。
何の脈絡もなしに、インターン生の宮下さんの発言が穏やかな雰囲気を一変させた。
怪訝そうな目線で解説を求める常闇くんの傍ら、宮下さんはサンドイッチをゆっくりと咀嚼している。
そこに、ホークスが揶揄うように口を挟んだ。

「へえ、常闇くんモテるんだ」
「……冗談を。より子、適当なことを言うな」

ホークスは唐揚げ弁当をつつきながらニコニコとしている。──ニヤニヤと言ったほうが正しいかもしれない。時おり見せる、意地の悪い顔だった。
宮下さんは頬張ったパンをアイスコーヒーで流し込み、一息ついたところで、ようやく切り出した。

「モテないの?」
「身に覚えはない」
「えー、でもさあ、同じクラスの」
「いつの話をしている」

心なしか常闇くんの声が荒くなる。
二人は小学校の頃の幼なじみと聞いたので、同じクラスとは、つまりそういうことだろう。
あまりに初々しいやりとりに顔が綻ぶ。ヒーローの卵として優秀な彼らも、こうして見るとまだ学生なのだ。

「なにそれ〜、同じクラスの?聞きたい聞きたい」
「踏陰の隣の席だった子なんですけど」
「ホークス!いや、より子!」

珍しく興味ありげなホークスだったが、常闇くんのこれまた珍しい怒号により話は中断された。恥ずかしいのか。そりゃそうか。
口が塞がれば勝手なことを言われるとわかっているのだろう。常闇くんは齧りかけのおにぎりを一向に口にしないまま、落ち着いた口調で淡々と話す。

「身に覚えはないと言ったはずだ。より子が何を見たのであれ、過去のことだ。今更掘り返すことはないし、現在そうだとは限らない。そもそも、気にしたこともない」

いやいや、それはないでしょ!

「え、それはないでしょ!」

図らずもホークスと被った。
思春期の男子が女子の視線を気にしたこともないなんて、そんなの嘘だ。彼がどんなに純情で、正義感のある理想の雄英生だったとしても、それとこれとは別のはずだ。というか、そうであってほしい。
納得のいかない表情を浮かべている常闇くんを横目に、ホークスは続ける。

「……まあ、常闇くんはそういうことにするとして。士傑ってすごいお堅そうなイメージだけど、宮下さんはどうなの」

常闇くんへの計らいか、はたまた気まぐれか、ホークスの興味は宮下さんの方へ。
宮下さんは大きな瞳を丸くして、ホークス、常闇くん、俺たちを見回す。常闇くんとは裏腹に、マイペースに咀嚼していたサンドイッチを再び流し込んだ。

「んー、そんなにお堅くなんてないですよ。校則キツキツだけど、恋愛禁止じゃないのでぜんぜん付き合ってる先輩いるし……」
「宮下さんは?」
「あ、あたしはいつだってモテモテですよ!」

宮下さんは屈託のない笑顔で応える。若さが眩しい。

「へえ〜ほらほら、宮下さんモテモテだって、常闇くん」
「何故俺に振るのです」

怪訝そうな常闇くんに構わず、ホークスは最後の唐揚げを頬張る。
対して、彼のおにぎりは依然減らないままだ。
常闇くんに代わって、さりげなく「同級生とかで気になる人とかいるの?」と聞くと、

「そういうんじゃないですけど、みんな強くてかっこいいですよ〜」

と言う。
なんて子だ。嘘か本当かわからない。
冗談混じりに言うが「モテモテ」なのはきっと本当なのだろうし、微妙に自覚なさそうなのが非常にタチが悪い。

「あたしのことより、ホークスの高校時代の話聞きたいです!モテモテだったんですか!モテモテだったんでしょ!ねえねえ!」
「おっと、もうこんな時間。俺これから公安に顔出さなきゃなんで。皆さんはどうぞごゆっくり〜。午後の活動は任せましたよ」
「えー!」
「……御意」

宮下さんの質問をひらりと躱し、さっさと出て行ってしまった。
話したくないのか、ただ謎にしておきたいのか、俺にはわからない。午後からの予定にはまだ余裕があるはずなのだが。

「ホークスの話聞きたかったねえ」
「そうだな」

サンドイッチを食べ終えようとする宮下さんの傍ら、常闇くんはようやくおにぎりを口にした。

:::::::20191020
■常闇くんのイメージをくずしすぎたかも
■サイドキッカーさんのイメージもあるので、修正・削除の可能性
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