「明日からここには来るな」
「な、なんでですかーーーーー!!!???」

教室に甲高い声が響き、昼休みの喧騒をかき消した。
クラスメイトが一様に視線を向けると、そこには見慣れた顔が絶望を絵に描いたような表情を浮かべていた。

「えっ、わたし何かしましたか。おかしなことしましたか。黒影ちゃんに嫌われちゃいましたか。そんな、そんなことって……」

いっそ清々しいほどに無自覚な彼女は、サポート科からやってきた“個性”オタクの宮下より子である。“自称”「黒影ちゃんファン会員No.001」だが、常闇に言わせれば「そんなものはない」という。しかし、ヒーロー科に足繁く通っては常闇──もとい黒影に会いに来る彼女が言うのなら、きっとそうなのだろう。そう思わせる勢いと熱量があるのだった。

「常闇ちゃん、ちゃんと説明したほうがいいわ」

わなわなと打ちひしがれる宮下を見かねて蛙吹が口を挟む。常闇はばつの悪い顔で「インターンがある」と零した。

「一ヶ月ほど不在になる」
「一ヶ月!」
「何も意地悪で言っているのではない」
「一ヶ月……」

見るからに意気消沈する宮下に、さすがの常闇も戸惑いを隠せないでいた。自分で言うほど寡黙な男ではないが、それでも困り果てた姿は珍しい。
遠くで「ザマァ」と言う心無い嘲笑があったが、宮下には届いていないようである。

「い、いっかげつ……一ヶ月も、黒影ちゃんに会えないなんて……わたしはどうすれば……」
「泣クナヨ〜」
「わぁん黒影ちゃあん……!こんなに悲しいなら出会わなければ良かった……!」
「本当ニソウ思ッテル?」
「うう、思ってないです……!」

宮下が泣きながら黒影に抱きつく傍ら常闇は渋い顔をして傍観し、その様子をクラスメイトが見守る。

「……なんかこっちまで悲しくなってくるね」
「切ねぇな」
「相思相愛なのにね」
「待て、相思相愛とはなんだ」

常闇が怪訝そうに呟くが、やはり宮下には届かない。
明日以降の彼女を思うと他人事ながら心が痛む。
側から見れば異常なほどの黒影愛である。
俺の“複製腕”も、“個性”オタクの矜持と言わんばかりに観察されたが、所謂研究対象に過ぎない。“個性”を研究し尽くし役立てていく様はサポート科の鑑と思うが、黒影に関しては訳が違った。研究対象として見ているには明らかに度が過ぎている。
サポート科として、“個性”オタクとしてこれが正常なのかすら俺にはわからんが、とにかくその情熱に周りは感化されてしまうのだった。
宮下を嘲笑うかのように予鈴が鳴ると、蛙吹は言った。

「泣かないでより子ちゃん。わたしたちは遊びに行くんじゃないの。体験ではあるけれど、しっかりヒーローの現場を学んでくるつもりよ。常闇ちゃんの黒影ちゃんだって、きっと成長して帰ってくるわ」

常闇は静かに頷く。
黒影が得意げに親指を立てる。
宮下は瞳を潤ませながら、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。

「ううっ、待って……待っています……。わたしも、サポート科として力を尽くしていますので……無事帰ってきたあかつきには……成長した黒影ちゃんのデータとらせてくださいね……」

「御意」と目を伏せる常闇も、意外とまんざらでもないのかもしれない。

:::::::20191009
:::::::20191109修正
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