「士傑高校一年! 宮下より子です! ヒーロー名“シーポーター”! “個性”は『テレポート』で、半径二十メートル以内だったら一瞬で移動できます! それ以上はちょっと気合がいります! よろしくお願いします!」

室内に響き渡る大音声で短い自己紹介を終え、勢いよく頭を垂れた。破天荒なように見えて、義務付けられているという制帽を片手に収めているあたり、しっかりとした教育の様子が伺える。きっちり三秒ほど数えて頭を上げると、彼女らしい人なつこい笑顔が現れた。
しかしながら、旧知の仲である俺以外──我が師をはじめとするサイドキックの面々は、唖然とした表情で固まっている。彼女の笑顔──これはより子にとっての素の表情であるが──に、二の句を告げないでいると、より子は不思議そうに首を傾げた。

「あー……うん。よろしく〜」

やっと反応を示したホークスに、より子は再び破顔する。
「じゃあ、まずその辺案内してもらって」と言う指示に従って、より子は部屋から出て行った。
漸く訪れた静寂の中、ホークスはこちらを一瞥し、気の抜けた笑みを見せる。

「常闇くんの幼なじみだって言うからさあ、もうちょっと違うのを想像してたよね」
「違うのとは」
「実は、ああいう騒々しい子が好きなの?」
「……何の話をしているのです」

より子は小学校来の旧友である。中学校入学を前にして離れてしまったが、ヒーローになるという志は変わらず、かの士傑高校に進学していた実力者でもある。
ホークス事務所で鉢合わせたのは全くの偶然だった。再びインターンの申し出を受け入れたホークスから「今回もう一人学生が来るんだよね。どうせだから同じタイミングで来てよ」と言われ、遠く福岡の地での再会である。驚愕する俺に「なになに、知り合いだったの?」と驚くホークス。そして、より子の様子からして、彼女もまた俺と一緒とは思っていなかったようだった。
士傑には雄英のような体育祭はない。つまり、テレビ放映などでヒーローに「目をつけてもらえる」機会はなく、自分で自分を売り込んだのだ。それも今や“No.2ヒーローの”ホークスに、である。
仮免試験ぶりの再会だったが、「常闇くんの知り合いなら言ってくれれば良かったのに」と言うホークスに「ズルになったら嫌なので!」と返すより子は相変わらずだった。

より子が建物の案内から戻って来るなり、ホークスは手をピシャリと叩き、思い出したように言う。

「じゃ、手始めにパトロールがてら博多観光と洒落込もうか」

逆である。
博多観光がてらパトロールではないのか。目的と手段が逆なことに些か引っかかりながらも、「わあい! あたし、福岡はじめてなんです!」と両手を挙げて喜ぶより子を前に何も言えなかった。


◎◎◎◎◎


ホークス、より子と共に市街地を巡回していると、周りから「ホークスが普通に歩いとる」「珍しか」という歓声を耳にする。
彼と歩くのは確かに希少だった。巡回は常に飛行していたし、有事こそさっさと飛んで行ってしまう。彼の横を歩いて回ったのは、職場体験の最初の一日のみである。口にこそしなかったが、今思えば彼の中では「博多観光」に過ぎなかったのだろう。

「いつもは飛んでるんですか? 今日は飛ばないんですか?」
「まあねえ。でもシーポーターは飛べないでしょ?」
「飛べなくても、空中を移動することはできますよう」
「はは、それじゃあゆっくり話とかできないじゃん」

笑って応えながら、スマホを構える民衆に手を振る。

「ツクヨミとは昔からの友達なんでしょ。それで俺んとこ来たの?」
「そんなことはないです! 踏陰がホークスのとこ行ってるなんて知らなかったです! 教えてくれなかったもの!」
「ツクヨミ」
「ツクヨミがホークスのとこ行ってるなんて知らなかったです! 教えてくれなかったもの!」

横から訂正を入れると、より子は愚直に言い直す。その様子を見て、ホークスはにやにやと笑っていた。「冷たいねえ。ツクヨミ」などと言いながら。

「……俺も、士傑に入学したなどとは聞いてなかった」
「ふみ──ツクヨミだって、雄英に入ったって言わなかったじゃん!」
「何れ知る事だ」
「いずれ知ったけどお!」
「……今日は平和だねえ」

ホークスは、やけにのんびりとした口調で言う。
「ホークス! 写真撮って! 写真!」と女学生たちが駆け寄ってきた。ホークスは軽い調子で快諾し、女学生に囲まれながらピースサインのポーズを取っている。成程。彼が歩けば瞬く間にファンに囲まれてしまうのなら、普段は空を飛ぶことに合点がいく。これでは仕事にならない──とは言え、ヒーローからすれば市民とのふれあいも仕事と言えるのだが。
隣のより子はというと「ファンサすごおい」と言いながら目を輝かせている。

「ホークスはみんなのヒーローなんだねえ。かっこいいねえ!」

ね、踏陰。喜色満面に溢れたより子が、そう語りかける。
返す言葉などいくらでも考え得るというのに、俺は「ツクヨミだ」と、そう返すほかなかった。

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