常闇踏陰は困っていた。

「ご覧ください!このフォルム!光沢!パワー!!わたくし発目が三日三晩かけた情熱の結晶!どっ可愛ベイビーちゃんです!いかがですか常闇さん!」
「笑止……!」

改良した自身のヒーロースーツを受け取りに、サポート科の領地である開発工房に赴いた時のことである。
見覚えのある女学生が血気盛んに近づいてきたかと思えば、矢継ぎ早にサポートアイテムを勧められるという脅威に襲われていた。
表情こそそう変わらないものの、次々と「どっ可愛」だというアイテムを差し出され──時に試着を促され──内心はひどく困惑していた。そもそも用があるのは彼女ではないのだが、尋ね人の姿を探す暇さえ与えてくれない。

「俺は改良済みのものを受け取りに来ただけなんだが」
「成る程!しかし常闇さん、個性は強いのでご自身も強化したらもっと強くなれると思うんですよ!ホラ!」

発目がスイッチを押すや否や、半ば強引に付けられたアームから火が噴き出す。
常闇は慌てて腕をあらぬ方向へ伸ばす──いや、強制的に伸ばされたという方が正しい。
凄まじい轟音を聞きつけて、工房の奥から顔を出したのは、常闇のよく見知った顔だった。

「なにしてるんですか、発目さん!っていうか踏陰!」
「おや、宮下さん」

宮下、と呼ばれた少女は発目より一学年上のサポート科生であり、常闇の幼なじみだった。常闇より一年早く入学した彼女だったが、互いに切磋琢磨する仲でも、常闇の良き理解者でもある。誰よりも彼のヒーロー姿を夢見ていたので、ヒーロー科に進学したときは心から喜んだ。
常闇もまた、彼女のいる雄英高校に入学できたことを内心でたいそう喜んだのだった。

「彼がヒーロースーツを新調するというので、わたしのベイビーちゃんを装着していただいたとこです」
「なんでそこに発目さんのベイビーちゃんが出てくるの!?」
「フフフ……それは常闇さんの未来を願ってのことですよ」
「ほんとかなーー!もーー!」

頭を抱える宮下に常闇は思わず苦笑する。
体育祭から癖のある人物だと認識しており、友人たちの証言からかなりの大物であることは事前に承知していた。常闇自身、先ほどまでその洗礼を受けている。
彼女も例外なく苦労させられているようだが、どことなく慣れ親しんだ風に見えるのは常闇の気のせいだろうか。同じサポート科として通ずるものがあるのかもしれないが、単純に慣れただけなのかもしれない。
「発目さんは一瞬黙ってて!」と、一通りのやりとりを終えたところで、宮下が常闇に向き直る。持っていた袋から漆黒のマントを取り出した。光をまるで反射しない、吸い込まれるような黒である。

「これ、先生から預かっていたヒーロースーツね。要望通り素材が変わっていて、遮光性の割に軽く動きやすくなっているはずだって。というのも──」

宮下は常闇の返事を待たずに熱烈に語り出す。黙っていればふつうの女子高生だが、こういうところはしっかり「サポート科」だと常闇は思う。
しばらくの間彼女の熱弁を聞いては頷いていたが、専門用語が多くなるにつれて理解の範疇を超え、次第に生返事気味になっていく。いつものパターンだった。
宮下がひと通り語り終えたのを見計らって、発目が再び身を乗り出した。

「それよりもこの52子ベイビーちゃんを付けませんか?」
「もう付けてんじゃないの!」

見ると、常闇の脚に早々と奇妙な装置が取り付けられている。

「発目さん、これは……」
「パワーオブライトアップ!瞬時に強力な光を放つ優れもので、小型ながらその強さはなんと3000ルクス以上……!──」
「それでは黒影の力を発揮できん」

熱弁を繰り広げる発目にかぶりを振る常闇だったが、彼女は動じずに続ける。

「ええ、知ってますとも!しかしですね、“個性”が暴走しちゃうなら抑える術を持っておけばいいわけです!」

ぎくり、と音がしたかのような錯覚を覚えた。
己の欠点を突かれ常闇は二の句を告げなかった。彼女の言う通り、完全に“個性”をコントロールできるわけではない。むしろ、暴走するリスクだって背負っている。
どんな暗闇でも黒影を制御下におけなければ、誰かを守るヒーローはおろか、誰かを傷つける敵にすらなりうる“個性”である。
今はクラスメイトの力を借りて抑えることはできても、その先も助けを借りてばかりではいけない。ならば、一層の事──

「だめだめ!ぜったいだめ!踏陰はちゃんと黒影をコントロールできるようになるの!成長期の今からストッパーを付ける必要なんてないんだから!ね、踏陰!」

口を挟んだ宮下に、はっと息を飲んだ。
没収!と言ってむりやり装置を外されるやいなや、宮下と発目の言い合いが再度勃発する。

「踏陰の!サポートは!私が!するので!」
「面白そうなクライアントを独り占めにするなんてずるいですよ宮下さん!」
「ええい、うるさい!後輩はだまってなさい!」

これは暫く終わりそうにない──そう直感した常闇は決着を待たずして踵を返す。

「より子」

常闇の声が宮下に届いたかはわからない。

「有難う」

若干の疲労感と新しいスーツを抱えながら、意気揚々と工房を後にした。

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