目の前の光景に言葉を失った。
「は」と嘴から洩れる微かな呟きに、より子は首を傾げる。その肩口には鮮やかな赤い髪が流れた。見慣れない色だ。

「踏陰?」

彼女の一言で、はっと我にかえる。
おれの驚きなど気にも留めずに、上機嫌に笑ってみせた。

「それはなんだ?」
「ふふふ、なんでしょう?」

色鮮やかな髪を指先で弄び、更なる疑問文で返す。反応のしづらいこと、この上ない。

「ごめん、ごめんて。怒った?」

それは髪の色のことだろうか、彼女の反応のことだろうか。
何れにせよ怒るには至らない。怒ってなどいない、と言うと「良かったあ」と呑気に飛び跳ねた。ついでに赤色の髪も弾む。
しかし、髪の色はどういう了見なのか。先日──つい二ヶ月ほど前──までは艶やかな黒髪だったのだ。それが、何故。

「だって、高校生だよ?校則もないんだもん」
「しかし──」
「似合わない?」
「見慣れん」
「踏陰が似合わないって言うなら染め直そうかなあ」
「……そうは言ってない」

あからさまに不服そうなより子だが、久々に会った友人の髪の色が変わっていたら当然の反応だろう。黒髪から覘かせる鮮やかな赤色は、正直異質に見えた。
彼女いわく、全部を染めるのではなく、見え隠れするように部分的に染めるのがお洒落でかわいいのだという。
わからない話ではないが、もともとの黒髪が美しかっただけに「勿体ない」という至極凡庸な考えばかり浮かぶ。
おれの思いなどお構いなしに、より子は赤い髪を揺らせる。異質に感じるが幾度かまみえるうちに自然に見えるのだろうと思うと、それはそれで切ない。

「踏陰も染めたらいいのに。きっとかわいいよ」
「必要ない」
「えー、きっとカッコいいのに」
「……必要ない」

少し言葉に詰まったのを、より子は揶揄うように笑うのだった。

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赤く染まったのは、
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