↓↓↓↓黒影がよくしゃべるよ↓↓↓↓
「我を保て黒影!この程度の暗黒に飲まれるな!」
「ウッセーナ!イチイチ指図サレテラレッカヨ!」
闇が、傍らを横切った。
半身に触れた闇は鎌鼬のように鋭く、僅かにかすめただけだというのに、左腕の皮膚を切り裂いた。
鮮血。深手ではないが、切りどころが悪かったらしい。痛みにつり合わない血が左腕をつたう。
──我が個性ながら恐ろしい。
晦冥下において、おれの個性──黒影は無敵だ。故に、持ち主であるおれでさえ手に負えない程の兇暴さを持つ。個性の制御ができないなど、ヒーローを目指す以前の問題であり、黒影を手なずけるのはヒーローになるための絶対条件である。しかし──
「やはり、この暗闇では、そう上手くはいかんか」
「アアッ?オレノ闇ハコンナモンジャネーゾ!ワカッテンダロ!?」
ああ、理解っている。
理解っているから、恐ろしいんだ。
だからこそ、制御できなければならないんだ。
「ウウ……ヴヴヴヴ……」
先程よりも闇の気配が増す。
──いかん。そろそろ静めなければ!
「踏陰ってば!」
突如、背後から怒鳴られ思わず肩が跳ねる。
振り返ると、しかめっ面を浮かべる見慣れた顔があった。
「より子か……驚かせるな」
「驚いたのはこっちよ。日が暮れたのにシャドウちゃんを出したら危ないじゃない」
「それは──」
「より子!!」
「わっシャドウちゃん!」
おれの反論は、唐突に割って入る黒影によって儚くもかき消される。
黒影は勢いよくより子に飛びつき、漆黒の身体をより子にすりつかせた。
「シャドウちゃん元気だった?」
「夜ダカラ元気!」
「そう、よかった」
好き勝手撫でまくるより子に、撫でられまくる黒影。闇こそ深いものの、先程までの獰猛な怪物はどこにもいない。嬉々として愛撫をねだるその姿は、さながら愛玩動物のようである。……我が相棒ながら、情けない。
「何故、ここに来た?」
「おばさんから、踏陰がここにいるって聞いて。晩ご飯だから呼んできてって言われたの」
黒影をよしよしと可愛がりながら、より子は答える。おれの方など見向きもせずに。
「ついでに危ないことしてないか見てきてって言われた」
「ソンナコトシナイヨォ!」
「そうね、そうだよねえ」
「……黒影」
頭を抱えたくなったが、耐えた。
理由は不明だが、黒影は昔からより子によく懐いた。おれの意思に反した行動をし、加えて兇暴性も皆無になる。悪いことではないが、恐らく良いことでもない。
おれは個性を制御しなければならないのだ。
「黒影」
「より子!モット!撫デテ!」
「はいはい」
「黒影……戻れ……」
「エーーーーーー!!」
「え〜〜〜〜〜〜」
「お前まで残念がるな」
名残惜しそうに離れる姿は、もはや自分の半身とは思えなかった。
余談だが、より子がおれの怪我に気づくのは、黒影が闇に消えてしばらく経った帰り道のことである。
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