「なんと言ってもあの機動力!あんなに素早く自由自在に動ける個性は他に類を見ないですよ!体育祭で見る限りでも射程距離は相当広いし暗くなればなるほど強くなるなんて最強じゃないですか!あんなに愛らしいのに!」
「ウンウンそれでいてあの攻撃と防御は味方だととても心強くて敵だとまさに脅威なんだよ!闇の中ではほんとうに獰猛になるから抑える負担がすごいはずなんだけど、それが本人の強さに起因していると思うんだよね!」
「それで実際の明暗とパワーないしスピードの変化の関係に興味がありまして、もちろん本人の体調にもよるかと思うんですけど、内的要因よりも外的要因に強く影響されるところが特徴だと思っていてその差を数値で測ることはできないかと考えているところなんです!」
「ああそれは僕も気になっていたところで、個性の発生には本人の体調が影響することは経験則としてあるけど感情も関係していることが最近の研究で明らかにされていて、むしろ黒影はその方面が強いんじゃないかなって思うんだ。あれほど自立した個性は見たことがないけど……」
「そのぶん感情で強く繋がっている可能性が高いんですよね、わかります!ああっ、考えれば考えるほど抑えきれぬ探究心……!雄英に入ってよかった……!」

勘違いしないでほしい。ここはアクの強いサポート科でなければ、個性オタクの変態の集いでもない。雄英高校ヒーロー科一年A組──ヒーローを志す青少年の爽やかな学舎のはずだが、めくりめく繰り広げられる個性談義がひたすら暑苦しい。
きっかけは、宮下より子である。サポート科一年生の彼女は個性に関してオタク的思考を持ち、個性を求めてアポ無しで乗り込んできたのだった。そしてその日から二度目の襲来。可愛らしい外見とはうらはらに、グイグイ来るタイプらしい。
彼女だけならまだしも、話し相手がいたことで個性談義に拍車をかけた。それが緑谷である。
緑谷出久はヒーローらしからぬ控えめな見た目だが、なかなかにガッツがあり、個性も派手なパワー型だ。しかし見た目に違わずヒーローオタクらしく、個性の知識と探究心は人一倍という奴だ。サポート科と話が合わないわけがない。
奇しくも彼らが出会ってしまい、同調してしまい、果ては個性談義に花を咲かせ周りは若干ヒく……というのが、現状だ。

「常闇くんと出会えたのって運命ですね!運命感じます!」
「下らん」

一番の被害者で、事の発端でもある常闇は辛らつに言い捨てる。が、グイグイ来る系オタクはめげるということを知らない。

「そういうことで、夏休みの自由研究のお願いにきたんです!黒影ちゃんのデータを取らせていただけませんか!」
「……何がそういうことなんだ」
「差し支えなければ個性のしおりも見せていただきたいのですが」
「十分差し支える」
「ならばわたしのしおりもお見せしますので……!」
「興味がない!」

個性のしおりとは、また懐かしいものを出すもんだ。小学生のころは年イチで検査があったから、そのたびに見せあいっこをしていたし、個性の変化に一喜一憂していた。俺の場合は粘着度が強くなったとか、テープの幅が太くなったとかだけど、そのへんは人によってさまざまなわけで。
そう思うと、常闇の個性の変化は確かに気になる。

「確かに彼のしおりの内容は気になるが、個人情報なのだから軽率に見せてもらってはいけないぞ。君も迂闊にしおりを見せびらかしてはいけない!」

さすが委員長。飯田が最もなことを言うが、正論が通じる相手ではない。「でも好きなんです!」と意地でも引き下がらない宮下と「いけないものはいけない!」と返す部外者飯田の横で、常闇が険しい表情で腕を組んでいる。
騒々しい!……と、常闇が言いかけたところで予鈴が鳴る。宮下はあからさまにがっかりと肩を落とした。

「残念ですが、タイムオーバーのようです………………………次は移動教室なので私はこれにて…………ううっ黒影ちゃん…………またね…………」
「また、とは」
「じゃあね、宮下さん。また話そう!」
「うむ。この続きはまた今度だ」
「……また……」

学科を越えた友情の芽生えを感じさせる名残惜しい別れだが、常闇は落胆の色を隠せていない。

「あの、その、不躾ではありますが……」

宮下は別れ際にもじもじしながら言う。彼女の言うことはだいたい不躾なのだが。

「……なんだ」
「その、お別れにぎゅうっと抱きしめてもらいたいです……」

ざわっ。一瞬にしてクラス中の視線が集まった。

「……黒影ちゃんに!」

だろうなー。
クラス中が一体となり、視線が散らばる。二回目となれば反応は慣れっこだ。おそらく次も、次の次も同じことをやるんだろうと、もはや期待すらしてしまう。
常闇には申し訳ないが、女子に振り回される様子は端から見て滑稽だ。ふだんクールを気取っているだけに、よけいに。

「……黒影」
「アイヨッ」
「ワアアアアア漆黒に包まれる深淵み、業が深いです〜〜」

まあ、なんだかんだで付き合ってやる奴はやっぱり良いやつなんだろうな。

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