「ミロ様」

無反応。これは想定内。

「ミロ様」

まだ許容範囲。

「……ミロ様」

ああ、もう。

「ミロ!」
「なんだシルビア。あまり大声を出すな」
「聞こえてんじゃない!」

さも当前というように涼しげな表情で振り返るものだから、さすがに腹が立った。さっきから呼ぶわたしの声はなんだったというのか。

「様付けは寄せと言っているだろう」
「だからと言って無視をするのはどうかって」
「嫌だと言ったら嫌なのだ。直せ。いや、戻せのほうが正しいか」

椅子の上にふんぞり返って、ミロは言う。
まあ、ミロの言うとおりなのだ。
もともと彼と顔なじみだったわたしは、彼に数年の遅れをとって、この聖域に足を踏み入れた。もちろん聖闘士ではなく、侍女として。
はたから見ればミロの後を追ってきたようなものだが、彼が先に黄金聖闘士としての才能を開花させ、わたしが侍女としての才能――というものがあるとして――を開花させるのが数年遅かっただけのことだった。
本当は天蠍宮に仕える気すらなかったのだ。だって、なんだか気まずいじゃないか。
そもそもわたしの立場から仕える宮を選ぶことはできないのだが、わざわざミロがわたしを引き抜いたという話もある。本当かどうかはわからない。真意を確かめたところで適当にあしらわれるか、「だからどうした」と開き直られるかだ。ミロに正当な返答を求めるほうが間違っている。

「お前も頑固だな。おれが良いと言っているのに」
「ミロが頑固なの。わたしはやだって言ってるのに」
「今さら、様をつけられたところで気持ち悪いだけだ」

そんなことを今さら言う。働きはじめたころは、なにも言わなかったくせに。
こんなことを言いはじめたのはつい最近の話だった。当初はすぐ飽きるものと思ったのだが、思いの外長く続き、それどころか日に日に面倒臭くなっている。
だからといって、黄金聖闘士に対して粗末な態度をとるわけにはいかない。わたしにだって侍女としての意地がある。

「……こんなことならカミュ様のもとではたらきたかった」
「待て。なんでそこでカミュが出る」

特に意味はない。
個人的に宝瓶宮に仕えたかったのは事実だが、何より、他の黄金聖闘士様の名を出すと機嫌が悪くなるのだ。ちょっとした意地悪である。

「カミュ様はお優しいし」
「俺だって優しいだろう」
「カミュ様は美形であられるわ」
「俺だって負けんだろう」

真面目な顔をして、よく言えたものだ。いや、事実と言えば事実なのだけど。

「カミュ様はサラサラロングストレート」
「俺だって……この髪のなにが悪いと言うのだ」

ふわふわしていて可愛いとおもう。が、そんなこと言ってあげない。今は絶対に言ってあげない。
こうして、お互い一歩も引かないやりとりを、ここ数日ずっと続けている。不服そうに口を尖らせるミロをいなしては、同じことを繰り返している。わたしが一歩も引けないのに対して、彼は少しも譲歩してくれないのが一番の問題だとおもうのだけど。
第一、彼を呼び捨てにしているのを、他の聖闘士に聞かれでもしたらどうするというのか。

「構わんだろう。なにが問題だ」

そう言って、彼はいつも不敵な笑みを見せるのだった。




後日。

「――ああ、そこの、君。そう、天蠍宮の――シルビアといったな。……私から言うのもなんだが、名前くらい彼の好きなように呼んでやってくれないか。――それと、悪いが、ミロとケンカをするのに私の名を出すのはやめてほしいのだが」

申し訳ありませんでした!
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