ちょこっとインディゴ現パロver3


*目次
独りよがりな英雄/鳩ぽっぽのお話
死んでいるという証明があるかい?/カカシが布団になったお話
ひたすらボケ倒す/ねえ、知ってる?のお話
君の中に天使を見た/運命のお話



▽独りよがりな英雄



 くーるくーるっ、ぽっぽー。
 くーるくーるっ、ぽっぼー。

 公園のベンチに座って飴を舐めていると、番だろうか。目の前の木の枝で鳩が二匹寄り添いながら、互いに啄み始めた。

 (仲良いな)

 平和の象徴と言われているが、現代社会においてはベランダ持ちの敵でもある。

「鳩は害鳥だ」

 あのゲンマが大学時代、荒んだ表情で言い切った。一人暮らしを始めたアパートで糞被害に遭ったらしい。今でも街中で鳩を見ると、複雑な顔をしている。

 頬を擦り合わせている鳩たちをぼーっと眺めていたら、ふと隣に座るカカシの腕が俺の背に周り、その手が肩に添えられそうとしている気配を感じた。

「カカシ、外ではしねーぞ」

 釘を刺すと、ガン!とショックを受けるカカシ。いや、驚くの俺の方。すると思ってんのか、こんなところで。

「し、しないの」
「しねーよ」

 いくら二人きりとはいえ、公園だぞ。公共の場であんなことできるか。

「じゃあ、家でならいい?」

 尚も食い下がって来るカカシ。ぐっと身を乗り出され、口の中の飴が歯の裏に当たりカランと音を立てる。

「したいのか、アレが」
「したい」

 かくして。
 家に帰るなり、忍犬たちが寛いでいたラグの上を陣取り。例の如くカカシの脚の間に着席。後ろから抱き締められる。

 そして。

 すりすりすりすりすりすり。

 (これ、いつもと何が違うんだろう)

 頬に擦り付けられる頬。摩擦を感じながら昨日髭剃っておいて良かった、と心から思ったのだった。


▽死んでいるという証明があるかい?



 オレはリビングのソファの下に座って本を読んでいた。ふと視線を外し、右膝に乗せたビスケの背を撫でる。

 穏やかな時間だった。
 ウルシは後ろ足で耳の後ろを掻き、ウーヘイはフローリングの上でうたた寝。グルコとシバとアキノは集まって談笑し、ブルの背中の上でパックンが欠伸をした。

 その時。

 ーーーバン!

 突如、チヒロの部屋の扉が開いた。
 
 その向こうで仁王立ちしているのは、「夜勤明けもう無理寝る」と言って帰宅早々潰れたはずのチヒロだった。
 
「どうしたの」

 その場の皆の声を代弁して聞くが、返答はなく。

 チヒロ は掛け布団をずるずると引き摺りながら、オレの前で立ち止まった。そして。

 じー。

「「……」」

 じぃー……っ。

「「……」」

 じぃーーー……っ。

 無言のままビスケを見つめる。瞬きもせずに。ただ、じぃっと見つめている。

 (どうしたんだろう)

 ちょっと。いや、かなり恐い。

『なんでお前がそこにいるんだ』

 言わんばかりにゆるりと首を傾げるチヒロ。

 その圧や尋常ではなかった。不覚にも頬を汗が伝う。

 長く彼を知るオレでさえ、この様だ。
 他の忍犬たちは尚更のこと。普段のチヒロらしからぬ異変を察知し、自分のいるところからじりじりと後退る。

 見つめられた当人(ビスケ)は、尻尾を脚の間にくるりと丸めながらオレの膝から降りてしまった。

 どうやらチヒロはそれを待っていたらしい。

 ビスケが退くなり、圧をあっさり引っ込めた。

 そして、何事もなかったようにオレの元へやって来てはオレの両膝を立て、その間に自ら腰を下ろす。こちらに背を向けて座り、オレの両腕を取っては自らのお腹に回した。

「チヒロ?」

 持参した掛け布団を胸までたくし上げ、ついでにオレの脚にも掛けて。

「すぴー」

 寝た。
 秒で寝た。

 (まさか)

 オレと一緒に寝たいと思ったチヒロが、わざわざ自分から布団持参して来たの。そしたらオレの膝にビスケがいたから妬いたってことか……?!

 気付いたオレはチヒロのお腹に手を回したまま、ソファに凭れて天井を仰ぐ。

「反則でしょ……」

 好き。

 そう呟くと、周りに寄ってきていた忍犬たちが一様に嘆息した。


▽ひたすらボケ倒す



「チヒロ、知ってる?」
「なにを」
「遺伝子レベルで大好きな人のことを、いい匂いって感じるらしいよ」
「ふーん」

 言われてからはたと気付く。

「なに、お前。遺伝子レベルで俺のこと好きなの」
「なんなら量子レベルで好きだけど」
「マジで」
「チヒロもでしょ」
「は、俺?」

 まるで心当たりがなくて振り返ると、雷に打たれたような顔をされた。

「まさかオレのこと……、好きじゃ、ない……?!」
「いや、好きだけど。量子レベルではないかな」
「なんで」
「なんでって……、量子だぞ」

 分子、原子を経由しての量子だぞ。

「それに、遺伝子だろうが量子だろうが。俺はカカシだったらなんでも好きーーーうぉっ!?」
「オレも好き」
「分かった!分かったからちょ、離れろ!髪が擽ったい!」
「嫌だ」
「嫌だ?!」

 まだ話しているにも関わらず、押し潰さんが如く覆い被さって来ては甘えているつもりなのか。頬に髪を擦り付けられ、辛うじて動く手でポンポンっと彼の頭を撫でてやった。


▽君の中に天使を見た



 のはらチヒロ先生。

 臙脂色の髪に、涼しげな目元。
 誰にでもフランクで声が掛けやすく、患者さんたちからはもちろん、わたしたち看護師の間でも評判がいい。

 部長であるはたけカカシ先生とは歳が近く、抜群のルックスである二人が並ぶと正直眼福。

 その腕、見た目さることながら、本人たちの預かり知らぬところでは『外科の双璧』と呼ばれている。

「のはら先生ー」
「なんだー?」
「はたけ先生とのはら先生って、いつからの付き合いなんですか」

 入院患者さんたちのお昼を下げた頃。

 ナースステーションで最新の医学雑誌片手にコーヒーカップを傾けていたのはら先生に訊ねると、彼はパチパチと瞬きしてから腕を組み「あー……」と天井を仰いだ。

「百年前?」
「えー、それって運命じゃないですかー」

 冗談に冗談を返したつもりだった。しかし、彼は言われて目を見開き、ゆるりと口元に笑みを浮かべる。

「ああ、そうだな。……そうだといいな」

 噛み締める様に目を細める先生。嬉しそうな声色なのに。その眼差しはどこか切なく、まるで不安定な足場の中で細い糸に縋っているようにも見える。

 普段の明るい彼からは想像出来ないような姿。思わぬ返事に、わたしはなんと返していいか分からず、でも何か言わなければと口を開いた。

「のはら先生、あのーーー」
「うん?」
「のはら先生ー、明日いらっしゃる患者さんの書類届きましたー」
「おー、ありがとな」
「先生、306号室の患者さんのことで気になる事があって」
「今行く」

 すまん、また後でもいいか?と申し訳なさそうに眉を下げる先生に、わたしは「世間話なので、気にしないでください」と笑顔を返す。

「良ければ洗っておきますよ」
「悪いな。ありがとう」

 席を立つ先生からカップを受け取り、一人シンクへと向かう。

 蛇口を捻ると、流れ出る水。その先にカップを置いた。溜めた水に浮かぶのは、あの時の彼の顔で。

『……そうだといいな』
「そうだと、いいのにな」

 そう思わずにはいられない。胸が締め付けらるようなこの心地は、暫く忘れられそうになかった。
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