有海を抱いた。
それは暑い夏の日だった。汗が涙かもわからなくなったまじりあった液体が首筋をうっとおしく流れたのを感じながら、俺の全ては歓喜にわいた。
始めて触れた彼女の肌は、柔らかく病的に色白かった。暑さと汗しめった彼女は少しでもぞんざいに扱ったらすぐに壊れてしまいそうなほどに。
「好きじゃ。」
すき、あいしてる、俺のものにしたい。
だんだんと抑えきれない欲望に従った。俺は男で、彼女も女で、恍惚の表情は俺だったのか有海だったのか。
「出すぜよ。」
「ま、さはる…っ」
後悔はなかった。だけどそこに悲しみも本当の幸せすらなかった。俺たちの間には不可侵の境界があったはずなのにそれを侵したのはたしかに俺だ。
情事が終わった有海は目を閉じていて俺には彼女がナニを思っていたのかもわからなかったけど、それでも、ただ唯一俺は彼女を幸せにしたかった。
***
「最近の仁王先輩ちょっと、変っすよね〜。」
「あー、それ、俺も思うぜい。
もとからあいつ変わってたけど、最近余計に変っつうか。」
「まあ、仁王にも色々あるんだろう。
さあ、練習はじめようか。」
俺のいない部室で話されているのを偶然聞いてしまった。最近彼らがどこかよそよそしかったのはそういう理由があったのか。納得しつつも、彼らに見られないように遅れて部室に入りながら、ふかくふかく邂逅する。
はたして罪を犯したのは俺だったのか、彼女だったのか、俺たちを産んだカミサマとやらだったのか。きっとあの日、全てドロドロに溶けてしまったのだ。
なら、どうして、俺の気持ちも溶かしてくれなかったのだろうか。
愛してはいけない人を愛してしまった。隠し通せるはずだったのにーーー。
「姉さん、好きぜよ。」
隠していた私の恋は、知らぬ間に表情にでてしまっていたようだ。
物思いをしているのか、と人が尋ねるまで。