いつからかわからなくなった。
私はどうして侑士の隣にいれるのだろうか。私は彼の重荷になっていないだろうか。
一度生まれた猜疑はその日からどんどんと私の心を穏やかではないものにしていく。低いテノールの囁きも、鋭い視線も、全て疑いをもった目でしか見れなくなってしまった。
彼のメガネが伊達だということも、私は知らなくて、いつものように大人数で呼び出して一方的に文句を言う彼の取り巻きの女の子によって知らされたのだ。
私は、本当に愛されてるの?
ただの幼馴染の年下の女の子だから、気にかけてくれてるだけなのかもしれない。
私が侑士を好きなだけで、仕方なく付き合ってるだけ。
挙げればキリがなくて、私と付き合う侑士のメリットなんて何もない。
「…っ、あ…。」
気がついたら、頬を涙が伝っていた。情事が終わって、侑士はいつもみたいに無言でシャワーに行った。私のことはかえりみない。
所詮私たちはただのセフレなのかもしれない。
めんどくさい女は嫌いだろうな、ただでさえ私は侑士よりも年下で可愛くないし、彼の周りには綺麗な人がいっぱいいる。
どんどん、涙が溢れてきて、いつの間にか自分ではコントロールできなくなっていた。
侑士の真っ白なまくらに、目頭を押さえて泣いていたその時、
「…有海?
な、泣いてるん!?」
「侑士…?」
「どうしたん…?」
彼は慌てて私に駆け寄って、顔を覆っていた枕を奪って覗き込んだ。その顔は普段の侑士とは想像できないくらい困惑を浮かべている。シャワーでぬれた黒い髪が、うっとおしく張り付いているのも構わないで、彼の視線が私を捉えた。
「な、なんで私と一緒にいてくれるの?」
「そんなん、好きやからにきまっとる。」
もしかして、そんなことに悩んどったん?と、そう続ける侑士はさっきより穏やかな表情を浮かべていた。すきやから、すとんと落ちたその言葉は私を安心させるのには充分だった。すきやから、すきやから。そう何度も頭の中でリピートする。
「わ、たしも、好き。」
「おおきにな。
ほら、もう泣かんとって。驚いたやん。
もし、これからも不安になったらすぐ俺に言うんやで?」
そう微笑みながら言って、彼は私の侑士に似た黒の髪の毛を一房すくってそおっと口づけをする。そして、真っ赤になった私の唇にもキスを一つ落として。
「永遠に、心変わりなんかせえへんよ。」
愛しい愛しい彼に抱きしめられながら、私はずっと先の未来をみた気がした。
長く愛してくれた本当の心も知らずに、黒髪が乱れた今朝は物思いにふけっているところです