会いたくなんかなかった。
せっかくわすれかけてたのに。


―――それでも、
元気な姿をみれてよかったなんて思っている自分がいた。




















カランカランッ
ドアが開いた音がして、誰かが店に入ってくるのがわかる。


ウミは花の茎を切っていた手を止め、顔をあげてかたまった。





「っい、らっしゃいませ」

動揺が声にあらわれる。









――どうしてここに、

頭に浮かんだ最初の疑問は口に出せない。
只、苦しいだけ。





“顔も見たくない。”

昔そういった彼が、昔よりすこし大人びて
店の入り口に立っていた。







鳶色の髪も、優しげなその瞳もあまり変わってはいなかった。




―――リーマス・ルーピン。

私が愛した人。







ウミは反射的に店の奥に引っ込もうとした。
今日は幸いにも混んでないし、アルバイトにまかせられる。


しかし、それはかなわなかった。


少し店内を見渡した彼が、確かにウミに向け、






「ねぇ、花束をつくってほしいんだ。」

そう声を発した。




その声だけで、動けなくなる。

やっぱりまだ――…








好きだから。

忘れられてないから、あなたのことを。







「…っ、どのように
なされますか?」


視線をそらす。
合わせないようにする。



大丈夫、変になってないよね。
気づかれてないよね。


リーマスはもう忘れてる。





「―――大事な女性に贈りたいんだ。
あとはまかせる。
好きなようにつくって。」



視線は床から離せなかった。
彼がこっちを向いているのは、わかっているけど。



ダイジナジョセイ。



その言葉に胸が傷んで、顔をあげられなかったのだ。



遠い昔、リーマスの大事な女性になりたかった。

なれると、信じていた。
ずっと一緒にいたかった。






「かしこまりました。
少しお時間かかりますが、よろしいでしょうか?」




――その間だけ、思い出にひたらせて。


心のなかで呟いた。
今だけだから、好きでいさせて。














私たちはホグワーツで出会った。

二人ともグリフィンドールの監督生になって、接点ができた。

もちろん私はリーマスが好きだった。
優しくて、思いやりがあるリーマスが。

だから同じ監督生になれて、すごく喜んだし、ましてやリーマスに好きだと告げられた日には夢だと本気で思った。



でも、私たちは終わった。


彼は人狼だった。そして私はそれに気付いた。
私は信じてほしかった。
彼に話してほしかった。



「なんで、言ってくれなかったの!?
私じゃ力になれないの!?
彼女なのに、信じてよ。
ねぇ、リーマス!」



「…君に俺の気持ちは、わからないだろう。」



「リーマス…!
話してくれたらわかるわ!
私あなたを助けたい。」



「―――助ける?
どうやって!?狼と人間だ、俺に対する嫌みなのか?



「そ、んなことない!」




「煩い。………顔も見たくない。でてってくれ。」







結局私はうぬぼれてたんだ。
彼女という地位で、彼をキズツケタ。

優しい彼にあんなことを言わせるほど、ためさせてたんだ。





そのあと私はホグワーツをやめた。

元から病弱だった母が死に、日本にすむ父は私を日本に連れ戻したかったらしい。
私は特に抵抗もせず、ホグワーツから、リーマスから逃げた。


そして今ロンドンに戻り、マグルの花屋をやっている。







私は臆病者。
今も昔も。


彼と向き合うことすら出来ない。



ただ彼から花束をもらう女性に嫉妬して、でも自分じゃ怖くて何もできない。

















「お客様、
こちらでよろしいでしょうか?」


薄いピンクのリボンを最後に結んで、リーマスに向けた。


醜い嫉妬でぐちゃぐちゃな心の割には良くできていると思う。

きれいなオレンジ色は、私とは正反対だ。





「すごくきれいだね。ありがとう。」




彼が花を見ている隙な顔をあげた。
そして彼を視界がとらえる。


――嗚呼、この笑顔が好きでした。
そして、諦めがついた。


私じゃ、この笑顔をつくれない。









「ありがとうごさいました!」

会計をすませ、店をでる彼にウミはそっとエールを、おくった。






















―――夕方。

ウミは店を閉めた。
今日の営業時間はおわり。

そしていつもどおり、片付けをして店をでる。




しかし、

店から2、3歩のところで前方の人を見つけて足がとまった。

なんで…?







その人がこっちを見た。

手にはウミの作った花束がある。














「花束を―――。
大事な女性に花束を贈りにきたんだ。」









リ、マス。言葉にならない。

そこにはさっき花束を注文した彼が。











「受け取ってもらえるかも分からないんだけどね。
俺は昔その人をすごくすごく傷付けたんだ。
言ってはいけないことを言った。

完全にやつあたりだったよ。
戻れるのならあの時に戻って、2度と離さないのに。

大好きなんだ、まだ。
ずっとあやまろうと思ってて、だけどいなくなってて。
ずっと後悔してる。


――君がすきだ。」








リーマスが動いた―――。
その瞬間視界がなくなる。


だきしめられた、そう理解したあと上から言葉がふってきた。








「嫌なら突き放して。
5秒だけまつから。」





―――そんなの、できるわけない。






「す、き。」





ウミはリーマスの背中に腕をまわす。
花の香りが、鼻腔をくすぐる。

そしてなつかしいリーマスの匂い。






「ごめんね。
私、自分のことしか考えてなかった。
無神経なこと言って、リーマスのこと傷付けた。」




ただの道であることも忘れて。
リーマスに思いを伝えた。






「君がいなくなって、
俺がいかに君を必要としてるかがわかった。」






返事のリーマスの声に憂いが帯びる。
そして抱き締められた手が強まった。











「愛してる。
やりなおしてほしい。」









一旦名残惜しそうに、二人の体がはなれた。


「これを、うけとってくれないか。」









目の前に、差し出されたそれは――――


“大事な女性に贈りたいんだ。”





ウミはそれをさっきの返事と共にゆっくりうけとった。







はなさく。
(枯れることのない愛を)


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