俺は彼女が好きだった。誰よりも。
きっと彼女も俺のことを好きでいてくれてだから俺は心のどこかで何をしてもばれなければいいのだと思っていた。そんな保証どこにもないのに、俺から彼女が離れるなんでありえないと過信していた馬鹿な俺。

こうして俺はどこまでも落ちていったのだろう。





「好きやで。」




今日も俺は有海以外の女の子に甘い嘘で包まれた上っ面だけの言葉を囁く。そうすれば簡単にその女の子が言う通りになるとわかっていながら。頬を赤く染めて上目にこちらをみるこの子は確かに一般からみたらかわいい分類に入るのだろう。しかし、俺はそれを見ながらそこに彼女の影を見ていた。



有海は弱さを人に見せないタイプの人間だった。いつだって自分が苦しくても俺を安心させるように上手く笑うのが得意だった。
彼女が辛いのを隠すのは俺が一番よく知っていたはずなのに、いつからか俺までも騙されていたようだった。







「ねえ、彼女はいいの?」

「黙りや。」




保険委員長である我が身をいいことに俺は保健室を逢引のための部屋として先生がいない時に使っていた。真っ白なシーツとカーテンの中で、俺はただ一人の女を思い浮かべながら、違う子を抱き寄せた。有海だったら、こうするだろうな、と長い間一緒にいた幼馴染の彼女のことを考えながら。

そのくせ、浮気相手が有海の話をもちだすと、俺はいつも面倒くさいと口を塞いだ。
こんな俺にもどこか後ろめたい気持ちがあったのだろうか。


俗に言う浮気を繰り返すうちに俺たちの心は離れて行った。








くらのすけ、







彼女の柔らかくて暖かくて全てを包み込んでくれるような声で俺を呼んでくれるのが好きだった。それだけで俺の名前があるような気もしていた。
しかし、思い返せばいつの間にか有海の声は震えていて、浮かぶのはいつだって何かを押し殺したような微笑で。













別れよう。





これが有海からきた最後のメールだった。俺がいつもみたいにあしらうように別の女といたときに震えた俺の携帯は、もう彼女との繋がりを持ってはいなかった。




なあ、有海、お前は泣いたのだろうか。
俺のいないところでどれだけ苦しんだのだろうか。

今の彼女に関することはわからないことだらけだったけども、唯一、わかっていたのはもう戻れないだろうということ。





次に好きになる人は大事にしてあげてね。





最後にそう付け加えられていたメールを俺は震える指で消した。認めたくはないのに、どこか悟っている自分がいた。




「…有海、」



一年前のこの日、有海の誕生日を祝った時のまだ笑っている俺らが映る写真たてが風に押されて机から落ちて行った。

誕生日おめでとう。



この日にしたのは彼女なりのけじめだったのだろうか。幸せになってほしいと、心から思った。


title.亡霊さまよりお借りしました


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