いつかこんな日がくることをどこかでわかっていた。
やっぱり私たちは。




大切なもの程急ぎ足、泣けば泣くほど乾く僕






景吾さんのお祖父様が亡くなった。



その訃報は跡部宅にいっときの混乱を導いたが、もとからお祖父様は病で入退院を繰り返していたからそれも一時でおわった。

そういえば、私と景吾を結婚させたがっていたのもお祖父様だった。鋭い視線とアイスブルーの瞳は、景吾そのもので驚いたのを覚えている。


“景吾を、よろしく頼む。”

そう言われたのも思い出して、あのころより幾分か年をとって元気のない最近のお祖父様はそれでも跡部家の最高権力者だった。お義父さまよりも景吾よりも、発言権があったからこそ、今私はここ景吾の隣にいれるのだろう。



流石にお通夜に行く前に景吾さんは帰ってきた。仕事おわりのようで少し疲れた様子だったけどすぐに喪服にきがえて、私をつれて大きな本宅へ移動する。
運転手つきの大きな車の中で、隣に座っているのに会話は一つもない。景色をみるふりをして彼の横顔を見つめたが、彼は少し眉間にしわをよせてただまっすぐ前を見据えていた。何かを考えているようでもあったし、心当たりは一つだけあったけど私からは絶対に言うことができないものだから。


お通夜自体は静かにしかしやはり跡部の家を表していて豪華だった。
まるでお祖父様の生前の性格を表しているかのようだった。



その帰り道、当たり前のように行きと同じ車に私も一緒にのりこんだ。てっきり帰りは別なのかと思っていたがそうではないらしい。

そして、行きのときのように彼の横顔を眺めていたとき、ふいに彼が私の方をむいた。
あわてて視線を戻したが、気づかれていないだろうか。



「なあ、有海、お前は…、」
「なに?」
「…いや、何でもねえ。
帰ったら話がある。」
「わかった。」


久しぶりに会話をした気がした。

その間にも窓越しから見える景色は変わるのに、私を見る彼の視線は変わらない。どこか冷めている。ただ言葉を少し濁してそこからなにも発しない景吾に疑問はあったけど。




正直にいうと帰りたくなかった。私は彼が言いたいことがわかっていたから。
しかし、願いに反して車はあっという間に私たちの家についた。いつ見ても大きい門の前に車が止められて運転手にドアをあけてもらう。
なにも言わずに視線だけで促す景吾のあとを半歩さがって歩いた。

はいった部屋は寝室も別々な私たちが唯一共有している部屋だった。
彼はゆっくりとソファーに座って、私もその前のソファーに座って彼が口を開くのをまった。


彼はゆっくり、こっちを見ていた。







「有海、離婚しよう。」




やっぱり、という感じだった。

結婚を強いていたお祖父様が亡くなったのだ。
もう私と一緒にいる意味はない。


訃報を聞いたときから、いや、愛がないと分かったときから心のどこかで分かっていたのだ。いつか、いらなくなる時がくる。
だから、私は絶対彼に気持ちを伝えたりなんかしない。



「わかった。」


少し俯いて返事をした。

分かっていても、それでも痛む胸。
私が最初から好きだと、愛してると伝えていたら離婚にはならなかったのだろうか。
いや、景吾は私なんかじゃ止められないだろう。








「手続きはこっちでしとく。」
「ありがとう。」

「有海、次はちゃんと好きなやつと結婚しろよ。」





何にも知らないであろう彼の言葉に、私は夜人知れず泣いた。その後の言葉はなんとか誤魔化せただろうけどほんとはもう泣きそうだった。

明日からもう、景吾とは他人だーーー。


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