わからなかった。彼の気持ちも、私がどうしたいのかも。
ただ一つ言えるのは、もう一緒にはいられないことだった。




どうやったって一緒になれない、
これが僕らの死因です




「今帰った。」


久しぶりに彼が帰ってきた。大きな屋敷に仕用人たちが嬉しそうに顔をほころばせて、彼の世話をした。
彼らも主人である人がかえってこないのは寂しく、よく私にいつ帰ってくるのかをさりげなく聞いていた。私は曖昧に笑っていた。

そう、彼はほとんどこの家に帰らない。もちろん連絡もない。


私たちは望まぬ結婚だったのだ。お互いの会社の利益のために、形式だけでも籍をいれておこうと、最初に彼に言われたのを覚えている。その時の彼の表情が、暗かったのも。

私たちに愛がないことの証拠に、景吾さんは決して私を求めてはくれなかった。
そのくせ、朝けだるそうに荷物だけとりにきた首筋には内出血が見られたりして、私は密かにないた。


きっと彼は私の気持ちなんて微塵も知らないのだろう。いや、この屋敷の全ての人も、私の両親でさえも。




「食事はいらない。寝る。」
「おやすみなさい。」



景吾さんは通りすがりに私に告げた。私に言ってくれただけよかった。前に帰ってきたときは一人で夕飯を朝まで待っていた時がある。
私たちの寝室は一緒ではないから、彼の動向もなにひとつわからなかった。

長い廊下を慣れたように歩く景吾さんは滅多に帰ってこなくてもはやりこの屋敷の主で、彼に仕える人たち全員を私もふくめて従えていた。
自分の寝室にたどりつくまで、私は景吾さんの背中を見ていたが、振り向いてくれることはなかった。




好きです。
彼に伝えたこともなかった。


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