どれだけ、願っても、伸ばしても届かない手を私は諦められずに掴もうとしていた。諦められずというよりはむしろ、哀訴する私を彼は呆気なくふりはらってその場にひとりで残していくのだ。いつだって私が認識するのは冷たい視線と拒絶する背中だ。彼においていかれた私は泣いて泣いて、声が枯れるくらい泣いて、ようやく目を覚ます。
「また、今日も見ているのか。
安心しろ、俺がお前を置いていくことはあり得ない。」
そう言って、魘された私を蓮二はいつも隣で慰めてくれていた。彼がつくる甘くて暖かいココアと、穏やかに私の頭をなでる大きな手が大好きで、そこで私は夢と決別していた。
夢にでる蓮二は氷のように硬く、でも簡単壊れてしまう脆弱さを併せ持っていたが、隣で目を細めて笑う彼はそれを微塵も感じさせはしなかった。彼が大丈夫だと言えばもう私が不安に思うことはなく、それをわかっていてポンポンと優しさを与えてくれていた。今思えば私は依存していたのかもしれない。私も蓮二が大好きで、蓮二も私を愛してくれていたのは日々の日常で分かっていた。しかし、わたしたちは何処かで確実に間違っていった。
「蓮二。」
そう言えばいとも簡単に安寧を与えてくれた彼はもういない。
別れよう。このままではお互い駄目になる。
蓮二は優しいから訣れを決して私のせいにはしなかった。それが余計に辛くなると聡い彼でも気づかなかったのだろう。そのせいで今でも私は君を思って泣かずにはいられないのだ。無条件に愛をくれた彼の面影が、何年たっても夜になってあらわれては苦しめる。あの夢は現実になってしまった。昔と違うのは起きてもあやしてくれる人がいないことだ。蓮二が望んでいたとおり、あの日から蓮二と別れて私は少しでも変われたのだろうか。相変わらず寝るのが怖い私を見てどう思うのだろうか。
また、戻ってきてくれるのだろうか。
「進藤、悪いがこのノートを職員室までもってきてはくれないだろうか。」
「はい、柳先生。」
ずるいよ、と囁いてももう届かない。
彼の優しい背中が永遠でありますようtitle
彼女の為に泣いた様
からお借りしました。