人生が不平等で、何でも持っている人がいるとはっきり悟ったのはいつだっただろうか。私は決してそんな人間ではないけど、今、私の目の前にいるこの人はそうだと思う。


「進藤さん、これ今度の会議の資料なんだけど、クライアントの要望で変えて欲しいって。
急なんだけど、確認してもらっていいかな。」

「はい、いいですよ。」

「ごめんね、押し付けちゃって。」


本当に申し訳なさそうに手渡されて、ことわれる女子なんでいないんじゃないかと思った。彼は所謂イケメンで、優しくて、仕事ができて、おまけに中学、高校時代何度も全国優勝へ導くほどスポーツもできるらしい。
私と話したあと、忙しそうに自分のデスクへ戻る姿は確かにかっこよくて、私の後輩、同期、先輩までも「幸村さん。」と騒いでいるのを知っている。


帰りは思ったより遅くなってしまった。一応女なので、暗い近道より遠回りになるが、街灯の多い道を通ってアパートへ急いぐ。静かな夜を歩いてようやく駅からアパートについた。今日は心なしか遠く感じたのは、もうおそいからか。いつものようにカバンから小さなストラップのついた鍵をとりだして鍵穴に差し込んだ。

カチ、それは開いた音ではなく、もとから開いていたことを示していた。今朝家を出る時は確かに閉めたのにといかぶしんでいたが、ある可能性を思いついてそうっとドアを開けた。


「おかえり。」


暗い外とは対照的に部屋は明るく、暖かかった。きっとそうしているのは部屋にいるその人で、いつの間にか彼ようになった青いエプロンを外して私を迎え入れた。


「ただいま、精市。」
「有海遅かったね。シチュー作ったんだけど食べる?」
「食べる。ありがとう。」


会社の人はこんな姿を知らないだろうな、とほくほくした気持ちでシチューを食べた。こんな完璧な人が私なんかと付き合っていいのだろうか、と思った時期もあったけど、いつだって精市は私がいいと言ってくれた。穏やかな顔をした精市が、私を見つめていて、不思議だと見返すとふふ、と笑った。


「今日ね、一緒に帰ろうと有海が帰るのまってたら有海、高田さんに絡まれてただろ?」

「うん、この後飲みにでもって誘われたけどちゃんと断ったよ。」

「知ってる。でさ、そん時思ったんだけど、そろそろ隠すのやめない?
俺だって我慢の限界なんだけど、お前隙多いからすぐ色んな人に誘われるじゃん。

結婚しよう。そしたら隠さないですむでしょ?
ちなみに拒否権はないから。」


彼は相変わらず笑ったままで、きっと私の驚いた顔にも笑っていたと思う。そしてそっとポケットから光る指輪をとりだして、私に見せつけるように薬指にはめた。
そして、言うのだ。



ずっと言う瞬間を狙ってた



title確かに恋だった
よりお借りしました。


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