浮気
その柔らかな髪も、纏う雰囲気も、時々するどくなる視線もすべて、私だけのものがよかった。彼を独り占めすることなんて、きっと永遠にできないのだろうけど、それでも視線の先に少しでも私がはいっていて欲しい。こんな大人になってまで、まだ夢をみるなんて。
「君がほしい。」
なんて、彼はずっとずるいままだったけど、惚れた弱みとでも言おうか、私は幸村の言うがままだった。私は自分の持てるものをすべて差し出して、それでも、彼の気持ちまでは手に入らない。
暗く、ただネオンが光るときその場所でしか私たちを繋ぐものはなく、いつ終わるかはただ幸村の次第だった。
情事のあとの涙を彼は知らない。
彼の指にはいつだって、輝くリングがあった。
私たちが会うのは、仕事上か、彼に呼び出された安っぽいホテルだったけど、唯一彼を街で見かけたことがある。
「精市、幸せだよ。」
「ふふ俺もだ。この後はどこへ行こうか。」
つながれていた手にはお揃いの指輪と、はにかむような笑顔があった。
優しそうで、私でも守ってあげたいと思わせるようなそんな女の子。
彼女の存在は私たちが関係を持つ時に幸村自信からも聞いていたし、愛おしそうに指輪をなぞる姿もみているはずなのに。
「幸村、」
二人は私の横をなにごともないように通って行った。勿論、目を合わすこともなくて。
すれ違ったあと、私は彼の連絡先を消した。
これで完全に終わったのだ。
まばたきすら忘れた
(ずっと目で追いかけた、君を)
title彼女の為に泣いた様
からお借りしました。
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