「…ただいま。」

「おかえりなさい。
今日ははやかったね。」

「いや、荷物とりきただけやから。
またすぐでてくわ。」





いつからだっけ。
侑士の愛を感じない。おたがいの大学卒業とともに始めた同棲は、もう3年になるけどその時より確実に忙しくなった侑士は、きっともうここを家だと思ってない。


おそろいで買ったマグカップも、侑士ようの青い歯ブラシも、男物のシャンプーも、もう長らく彼は使ってないんじゃないか。
たまに帰ってきて、きまぐれに精をはいて仕事へ向かう侑士のことを私はわからなかった。






「…ちゃん?
心配せんでもええよ。
明日ずっとついとるからな。」


2ヶ月くらい前だったか。わたしとの情事のあと、隠れるように電話をかけた侑士を私は寝たフリをしながら見ていた。

お医者さんのたまごである彼はいま最も忙しくて、きっと電話の相手も患者さんなのかもしれないけど、私の溢れる不安は止められなかった。

ーーここに帰らない日、ずっとその子といるの?





増殖したそれをいっぱい抱えて、私は侑士と暮らせないと思った。








あとはこの荷物だけだ。
キャリーに必要最低限の荷物を積んで、なにか忘れ物はないか確認する。取りに戻ることはできないし、会いたくない。


最後に、今までありがとうの手紙と同棲のきっかけとなったペアリングを卓にのせて。

侑士が帰って来た時に、これをみて、少しでも私がここにいたこと思い出して欲しいな。





最後に鍵を郵便受けから落とし、思い出のつまったふたりの家からでた。







私ね、ひとりじゃないよ。
(この子とともに、重荷にならないように去るの。)


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