あの事件から、もう二回同じ季節が巡ったけど、俺たちの時間は、特に精市の時間はずっととまっている。
有海が目を覚まさないように、俺たちも何も変わらないのだろう。
「柳、今日有海のところいこうぜ。
ほら、練習もオフだしみんなでさ。」
おれたちは中学を卒業して、メンバーはかわらず高等部へ入学して、赤也も1年後入学した。
いないのは、有海と精市だけだ。
「あぁ、そうだな。
佳奈もいくだろう?」
「うん。スコアかたづけるからちょっと待ってて。」
佳奈も笑わなくなった。
しかし、部活はやめると言った彼女を引き止めたときに比べるとだいぶ表情がでてきたように思う。
最初は頑なに断っていたお見舞いにも同行するようになった。
こんこん、と控えめにドアをたたく。中の少女がそれに応えたことはない。
今日きているレギュラーも、中学のときより落ち着いている。
「やあ、今日はみんな来たのかい?」
「大勢ですまない。
花を持ってきたのだが、花瓶はどこだろうか。」
出迎えるのもいつも同じだ。
精市は部活をやめてからほぼ毎日ここにきている。
「綺麗な花だね。
俺がやってくるよ。」
そういうなり精市は俺から花を受け取り病室を出て行った。
あの日から動かない有海の肌は白く、病室の色と同じでいつか吸い取られてしまうのではないかと錯覚する。
点滴によって与えられる栄養によって彼女は生きながらえていて、それがないと死んでしまう。
脆く、弱い有海。
俺はもう有海の笑顔を思い出せない。
うかぶのはいつだって、苦しそうな顔だけだ。
「なあ有海聞いてくれ。
今日は、また赤也が赤点をとって弦一郎に怒られていた。
仁王は、柳生になりすまして告白を断っていたな。」
「なっ、柳せんぱい、なに言うんスか!
ちょっと人より点数がひくかっただけなのに」
「仁王くん?また、わたしになりすましたのですね!」
「プリッ」
こうして話していると今はもうとても遠くに感じる中学時代を思い出す。
あの頃は、幸せだったと胸を張って言える。
「はは、柳、それはもう有海に伝えているよ。
2人のときに大体のことは話すんだ。」
いつの間にか帰ってきた精市が花瓶を窓辺に起きながら有海をみた。
慈しむように、苦しいように。
「2年がたったね、あの日から。
有海、君が眠ってからいろんなことがおきたよ。きっと君も一緒なら楽しかっただろうね。
ごめんね、君の2年を俺たちは奪ってしまった。」
静まりかえる病室にきこえるのは微かな電子音だけだ。
佳奈はうつむいて泣いていた。
他のレギュラーもみんな泣いていた。
「まだ有海は許してくれない?
ごめんねごめん。信じてあげられなくて、いっぱい傷つけて、言葉でも行動でも俺たちは追い詰めてしまった。
ねえ、有海。
そろそろ、おきてよ。
いくらでも謝るから、君が死ねというならその通りにするから。
だから、目を覚ましてよ。」
精市の叫びは有海に届いているのだろうか。俺たちの懺悔を、有海は知っているのだろうか。
彼女は動かなかった。