俺たちは取り返しのつかないことをしたと気付いた時はもう彼女は眠っていた。






「…有海
死んでよ。」


佳奈のその言葉をきいたとき、俺たちは間違いを犯したのではないかとはじめて疑問を感じた。
否、それまで俺たちは有海に暴力をふるうことになんの疑いももってなかった。



有海と、佳奈が屋上へ行くのをみたと聞いて俺たちは偽善で塗り固められた正義感だけ担いで、屋上へ急いでいた。
ドアをあけようとしたとき、確かに佳奈のいつもより低い声に躊躇して、その間にも佳奈の声は続いていた。




「なんでマネージャー辞めてくれないの?
有海ほんと邪魔。佳奈のせいで部員からもいじめられて、どういう気分なの?
はじめから、佳奈は有海のこと嫌いだったから。」


ちがう。佳奈は、俺たちの信じた佳奈はこんな子じゃない。俺たちのリアルはこれじゃない。
そう思うのに、もう素直に佳奈を信じることのできない自分がいた。


ごめんね。

久しぶりに聞いた有海の声がずいぶん弱々しく聞こえた。彼女はこんな羸弱だっただろうか。




なるべく音をたてないようにしたつもりだったが、震える手であけたドアはかしゃんと思った以上に大きな音をたてた。
二人の驚いた視線がこちらに集まる。



「せ、いいち」

いつもなら心地よく聞こえる佳奈の声は、なぜか甘ったるくて気持ちが悪かくて俺の卑劣さを感じさせた。



俺たちをみて有海は驚き、後ずさった。当然だ。当然のことのしたのだ。
もし、佳奈の言うことが本当で、佳奈のせいで俺たちから有海がいじめられているのだとしたら、俺たちは決して許されない。
でも、許されなくても今はただ、佳奈から本当のことをきいて、有海に謝りたいと思った。




しかし、俺が近づこうとするとその倍有海は後退して、震えていた。有海がとても小さくみえた。


有海。






いいかけたそのとき、有海が壊れた柵から身を投げ出されるのをみた。




間に合う。



そう思って一気に間合いをつめる。
落としちゃいけない、必死に手をのばす。








しかしーー








有海は、俺と、俺の手をみて


振りほどいて落ちた。







「大好きだよ」
有海が落ちたとき、まだ俺たちの異常がなかったときに聞いた有海の幻聴が聞こえた気がした。


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