私が眠る前の記憶は、あまりいいものじゃない。
「なに、佳奈いじめてんだよ!」
「てめえも同じ痛みを味わえばいいんじゃなか?」
「ほんとさいてーっスね」
「こんなやつだとは思ってなかったよ」
毎日毎日、すごく辛くてなんでこんなことしてるんだろうって思ってたけどやっぱり皆のこと大好きだった。
それは、結果として今わたしを嵌めてテニス部からいじめられるようにしむけた私じゃないもう一人のマネージャーの佳奈もそうだし、たくさん殴られたり蹴られたりした部員さんもそうだ。
私がこんなんにもなりながらマネージャーを続けてたのは、ひとえにテニス部が好きだったから。
それ以外ないはずなのに。
「佳奈のこと苦しめるだけのマネージャーなんかいらないな」
「仕事しろよ、カス」
「失望しました」
もう無理だった。
何言っても信じてはもらえないし、少しずつしかし確実に私の中に溜まってく存在否定がいつも蝕んでいた。
「…有海。
死んでよ。」
私と佳奈は親友だったはず。何でこんなことになっちゃったんだろうね。2年になって、仲良くなった佳奈をテニス部のマネージャーに誘ったのは確かにわたしで、佳奈が部員と溶け込んで行くのをみて私は幸せだった。
覚えている最後の佳奈はすごく苦しそうな顔をしていた。
そうさせたのは私だろうか。
ーーごめんね。
静かにそう呟くと佳奈は余計激昂した。
呼び出された屋上は、私と佳奈しかいなかった。春のゆるやかな風が二人の間をぬけていくのを隣で感じながら、私は佳奈が何故怒るのかを考えていたけど、やはりよくわからなかった。
「なんでマネージャー辞めてくれないの?
有海ほんと邪魔。佳奈のせいで部員からもいじめられて、どういう気分なの?
はじめから、佳奈は有海のこと嫌いだったから。」
ごめん。
佳奈の言葉を聞いてもう一度わたしはつぶやいた。佳奈はさっきよりも怒りをあらわにしてこちらへ近づいてきた。
ーーなんでっ
佳奈の口がそう動いた気がした。
その時、後ろでかちゃりとドアが開く音がしてふたりでおどろいてそちらに視線を向かわすと、一番会いたくない人たちがいて、私の震えは止まらなくなった。
「せ、いいち」
佳奈の驚く声が私の耳にもはいって、その後ろに続くさんざんわたしをいじめてきたレギュラー陣もみて、私の震えは絶好調に達した。
ーーまた、殴られる。
反射的に後ずさりした。ふたりでいるところを見られて、このあとは何時間も殴られるんだろうなって思った。少しずつ、わたしは後退したそのとき。
かしゃん。
嫌な予感とともに体がスローモーションで傾くのがわかった。
あぁ、ここはだめな柵なとこか、なんて案外冷静に分析しているうちに確実にわたしの体はフェンスを越えた。
これが、わたしの眠る前の最後の記憶。
落ちる直前必死の形相の精市が手を伸ばしたのが見えたけど、わたしはその手をかわして下に落ちた。