俺たちは偽りだらけだったけど、あの時の気持ちだけは本当だった。





有海を抱きしめるとき、俺は有海を通して真田の彼女をみていた。
おそらく、有海も俺を通して真田をみていたんだろう。


あの子を好きになったきっかけなんてもう忘れてしまったが、あの儚げな笑顔が俺は好きだった。





有海とはそんな弱さの中で"恋人"になった女の子だったけど、俺みたいな惰弱な人間でなくて、真田とあの子を見る視線は誰よりも強かった。


俺があの子と関係なく有海を見るようになったのは付き合って一年目の冬で、その日はとてもとても寒い日だった。真田たちが仲良く帰るのをみてあてつけのように俺たちも一緒に帰って、そのまま俺の家で肌を重ねたとき、有海の寝言は今でも俺を縛る。





「好き。」



彼女のストレートの髪も、閉じられたその瞳も纏う雰囲気でさえも一気に俺は引き込まれて、そしてこの言葉が向けられている真田を憎いと思った。あの子と真田が付き合い始めたと聞いたときもこれほど嫉妬はしなかっただろう。

ベットが軋む音を聞きながら俺は有海にキスを落とした。
いつか有海がこの言葉を俺にむけて言ってくれないだろうかと思いながら。
俺はいつの間にか有海を大事に思っていた。






真田とあの子が別れたとき、まっさきに思ったのはあの子ではなく有海だった。俺たちはずっと真似しかしてこなかったから、このあとのことなんてわからなくなっていた。


徐々にあけられていた距離に俺は気づいていたけど、何もできなかった。
真田と有海が話すのをみるたび、不甲斐なくなってあの二文字の破壊的な言葉を思い出すのだ。


ーー好きだなんて、俺たちは言ったこともなかったね。





俺のみた最後の君は泣いていた。卒業式のあとも大学で会えると、大学ではきちんと俺の気持ちを伝えようと思っていたのに、立海の入学式に有海はいなかった。


伝えたかった
君はいま幸せだろうか。
俺は陳腐なセリフだけど、君がいないと幸せになれそうにないよ。




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