なんであの子なの。


私たちは所詮偽物だった。
ちがう。私だけが偽物だった。

私は精市があの子見る慈しむような視線を知っているし、それが決して自分に向けられないこともわかっていた。
だけど、それでもいいと、身代わりでも私を利用してくれればいいとそう思っていた。



「幸村くん。
幸村くんはあの子が好きでしょ。」

「…なにを言っているんだい?」

「私ね、真田くんが好きなの。
言いたいことわかるよね。」




精市は孤独を埋めるように、抱きしめた腕の中の私にあの子を重ねた。
私はただあの子と想い通じ合う真田くんを好きなフリをした。それだけで精市の特別になれた気がしていた。




「有海…
一緒に帰ろうか。」


真田くんとあの子が手をつないだときいたら私たちも同じように一緒に帰り、手をつないだ。キスをきたらキスをしたし、体を重ねたら、体を重ねた。


それがどれだけ非生産的な行為であるかなんて私は充分わかっていたけど、あの子を追いかけるように恋人ごっこをしていた。
しかし、いくら恋人のように振舞っても所詮偽物の私たちの間には「愛」なんて言葉はなく、口に出すことも許されなかった。




高校3年の秋、あの子たちが別れたと聞いた。理由はあの子の受験勉強だった。


そして私も精市と確実に距離を置き始めた。
いつまでも平行線で交わらない関係に私は耐えられなかった。どれだけ一緒にすごしても、好きと伝えることもできず、あの子への思いでいっぱいの精市といるのに辛くなった。



距離を置くのもあの子たちの真似事だったけど、最後だけは違った。

あの子は外部受験をして合格して、大学は違えど真田くんと寄りを戻したのだ。


私も外部へ進学したけど、それを精市には言わなかったしきっと最後まで知らなかったと思う。







偽物はもう終わりにしよう。
自分の気持ちを伝えることは結局なくて、精市が私が泣いて泣いて泣いたことなんて知らないままいつか私を忘れるんだとしても今はそれでいいと思った。
縋って、なしではいられないと先に思ってしまったのは私だったから。


ゆっくりと、昔精市とふたりで通った道で家にかえる。もう二度と通学路を通ることはないから、せめてここだけは私の気持ちを知っていてほしいな。





だいすきだった
(一度も伝えたことはなかったけど)





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