夕焼け。
放課後の静かな教室。
隣にいるのに、表情が見えない雅治を見るのは何度目だろうか。雅治の心はいつだってわたしの隣にはないんじゃないか。
ーー聞くつもりなんてなかったのに、
でも今日だけは何かすっきりしなくてきづいたら口にでていた。
「ねえ雅治
私が別れようって言ったらどうする」
これは最後の抵抗だったのかもしれない。
ぜったいいうものかと、誓っていたがいつも心にひっかかっていたそれはすとんとおちた。
「お前さんがそうしたいなら、
俺に異論はない」
君はまだ覚えていますか。
わたしが始めて雅治に自分の気持ちを伝えたあの日も雅治はそう答えた。お前がそうしたいなら、と。
そこに彼の意思はなく、やはりそんな程度なんだって痛感させられた。
日が沈みかけた静かなここにある愛情はあまりにも一方通行だ。
「そっか、じゃあ別れよう。」
まるで自分じゃないみたいな、どこから出たのかもわからない声でつげたのはわたしの心とは裏腹なさよなら。
その時の雅治の顔がざっくりと傷ついたようにみえたのは夕日の逆光か都合の良すぎる解釈か。
そのまま教室をでて廊下を歩く。スリッパのかかとがぱたぱたと一人分鳴って、雅治がわたしを追ってこないことが聴覚で感じた。
あるく音が早まって、無意識に小走りになったことに気づいてももう止められなかった。いつもなら前をむいて歩くのに、俯いて足元とそのほんのさきしか見えなかった。
だから、前からきた人とぶつかったのは必然のような出来事で、もう平行感覚なんて失いかけたわたしは思わずその人に倒れかけそうになった。
「っ大丈夫でしょうか
…進藤さん…?」
「柳生…」
いつも見ていた雅治の隣に柳生はいて、わたしの気持ちも理解してくれた彼はきっとわたしの状況もある程度把握したのではないかと思う。
最初の驚愕の顔はすぐにいつものメガネのしたに隠れ、あとはただわたしの止まらない涙をぬぐいやさしくやさしく頭を撫でた。
このまま縋って泣きじゃくりたいのを堪えていた。
「ーーどきんしゃい、柳生。」
その空間を割くようにいつもの飄々ときた表情はきえて影をおとした雅治がはしってきた。
その目は、ただわたしたちをみていた。
「気が変わった。
有海になにを言われても別れる気はない。」
まるで離さないとでも言いたいような、強く鋭い視線を感じてたちまち私は目を逸らした。さっきまでは私が雅治をみていたのに、今は雅治が私だけをみているのを感じていた。
ぐっと、雅治がわたしを引き寄せて抱きしめたのはまるで愛しい恋人のような仕草で目を見張るとそこには白い雅治の匂いがあった。
「有海
すまんかった。
好きじゃ。別れたくない。
もう俺のこと好きじゃなくてもいいから
また好きになってほしい」
さっきまでの強いオーラをそこには感じられずに、震える雅治がいた。
「む、りだよ。」
しぼりだしたわたしの声に雅治の力が強まったのを、わたしはたしかに感じた。
「もう、好きだから。
ずっとずっと好きだから。」
雅治が顔をあげたから、わたしたちの視線はからまった。
いつの間にか柳生はいなくなってて、そこにいるのはわたしたちだけだ。
破顔した雅治を始めてみた。嬉しそうにもう一度抱きしめられて、耳元でささやかれる。きっと、もう大丈夫だよ。