久しぶり有海
俺は元気ですーーー。




白石のあいつへの手紙はいつもこの書き出しからだった。




ーーーこの手紙ももう両手両足じゃ数えられないくらいになってしもたな。流石に書きすぎやと思うんやけど、有海に伝えたいことたくさんありすぎて、思わず今日も書いてしもたわ。
うっとおしい、て笑うんかな。でも笑ってくれるならそれでもええな。俺はいつでも有海の笑顔が見たいんや。もちろん、謙也だって財前だってユウジも小春もやで。

そういやな、この前有海が毎日世話してた花たちが咲いとったで。きっと有海がみたらよろこびそうやなって、写真もいっぱいとったから。見せてやりたかった、隣で一緒に見たかった、なんて俺が言うていい話じゃないんやけど、でもほんまに綺麗やった。いつか写真見せたるな。

あとこれビックニュースなんやけど、オサムちゃんが喫煙するて宣言したんや。有海があれだけ言うてもやめへんかったオサムちゃんにどういう心境の変化やろか、まあ三日坊主やと思うけどな。ーー





昔から変わってない、整った白石の字でかかれたそれは、まだ書きかけのまま部室の机のうえに散らばっていた。だけど、白石本人はこの空間にはおらず、便箋のとなりにモチーフがとれた紐だけが置かれていた。

これは、

その紐には見覚えがあった。俺の携帯にもつけられているそれと同じものだったから。だから必然的になくなったモノには心当たりがあって、それがついてないただの紐はまるであの日のことを思い出された。


がちゃり、聞き慣れた音で部室の扉が開くのが分かった。ふっと、外の空気が入ってきて、振り向くと白石がいた。
その手には、すこしだけ汚れたフェルトのお守りが握られていた。



「ああ、謙也か…。
有海からもらったこれ、紐から外れてしもたみたいで、今探してみたらテニスコートの横に落ちてたわ。部活行く時にでも落としたんかな。
やっぱ、俺が付け直したからあかんのやろうなあ。」


白石は辛そうに笑っていた。あの日から、白石が今みたいに笑うことが多くなっていた。



俺たちは、どこで間違えてしまったんだろうか。有海を信じずに、転校生の新マネージャーの言葉を鵜呑みにしたあの時からか。

ただ一つ言えるのは、あの日が、有海が壊れてもう戻れなくなったということだけだ。





「お前なんか仲間やない。
こんな汚いもんいらんわ。」

あの日のことは二度と忘れないだろう。有海が俺たちのために作ってくれたお守りを白石が踏みつけた時、有海は壊れた。今まで俺たちが何を言っても、なにをしても泣かなかった彼女の泣き顔がそこにあった。

「…いやあ、いやああああああああ!!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」








彼女の泣き叫ぶ声が、表情が、あの時の空気でさえも簡単によみがえるのに、俺はもう有海の笑顔を思い出せないんだ。
笑わなくなっていたのにも気づかないで、ようやく知ったときにはもう全てが遅かったんだ。

あの日、壊したストラップを、白石は次の日自分で治してもってきた。だけど、いくらそれがなおったとしても、有海は二度と戻らない。



俺が書きかけだと思っていた白石の手紙はいつの間にかかき終わっていたみたいで、宛名の書かれていない封筒に、白石はそうっと入れた。




「届かない手紙ばっか書き続けてバカみたいって思うやろ、自分でも分かってんねん。やけど、少しでも繋がってたいんや、あいつの笑顔を思い出したいんや。
謙也やろ、いつも捨ててた手紙拾ってくれてたん。誰にもばれてへんつもりやったんやけどなあ、やっぱ謙也にはばれとったか。ほんま叶わんなあ。」



白石は、泣きそうな顔をしていた。きっと、俺ももう泣きそうだった。








ーーー俺、言うてへんかったけど実は有海のこと好きやった。やから、新マネージャーが有海に虐められてるって、俺らのこと嫌いやって言うてるのって聞いて、勝手に裏切られたと思って、有海の言葉を無視した。
俺は有海のこと好きなのに、有海も俺のこと好きだと思ってたのにって理不尽な怒りをぶつけてしもた。

謝って許してもらおうなんて、思うてへん。せやけど謝らせてほしい。暴言はいて、殴って、たくさんたくさん傷つけてごめん。有海の言葉を信じなくてごめん。有海の笑顔と、将来奪ってごめん。
あの日、落ちていった有海に何も出来なくて、ほんまにごめん。

会いたい。ーーー






白石の有海への手紙の最後はいつも謝ってもばっかりだった。

時には、涙で文字が滲んだ跡もあったり、何十枚にもわたる便箋が空白がないくらい文字で埋まることもあった。
だけど、これが届くことはない。それがわかっているからこそ、白石は書いたそれをいつも捨てている。
今日書いたそれも、白石は何のためらいもなくゴミ箱へ入れた。





ただ祈るだけの世界


願わくは、この手紙の一通だけでも君に届きますように




title.彼女の為に泣いた様よりお借りしました


prev next
back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -