まばたきすら忘れたの続き






もしも、今隣で笑うのが有海だったら、俺の世界は大きく違っているんだと思う。
だけど現実は有海はもう俺のもとにくることはないし、俺の隣に有海とは違う笑い方をする女がいる。

白いレースのカーテンからのぞく朝日が少し眩しいくらいに寝室に当たって、俺たち2人の微睡む朝を表していた。




「…ん、せいいち?
おはよ。」

「おはよう。」




こいつは俺の彼女だ。
一般的に可愛いと言われる顔立ちと、何も知らない性格があったから彼女にした。ただそれだけで好きでもないのにずるずると惰性で過ごしきてしまった。

後悔はないとはいいきれない。
俺はこいつも、有海も裏切って結果的に有海を失った。




ーーあの日から、ずっと、有海のあの時の顔が忘れられないんだ。




こいつは有海じゃない。有海は俺のことを決して名前では呼ばないし、どこか切ない笑みを浮かべていた。
いつからか、俺は彼女ともう連絡のとれなくなってしまった浮気相手を比べるようになっている。




本当はもう分かってるんだ。
俺は有海が好きだ。




だけどあの日、街ですれ違った日からメールも電話も繋がらなくて、もう有海とは連絡の手段がない。

会えなくなってから始めてわかるとはよく言ったものだ。


ベットに腰掛ける彼女に水の入ったコップを差し出して口を開いた。
もう、どうしようもないけど、せめて、罪滅ぼしだけはさせてくれないか。





「なあ、佳奈。
別れてくれないか。」

「…そっか。
精市、好きな人がいるんだね。女の勘ってあたるもんだよ。」

「知ってたのか。
本当にすまない。」

「謝らないでよ。精市に好きな人がいるの分かってて、言い出さなかったのは私だもん。
幸せになってね。」




ありがとう、その掠れた声は通じたかはわからないけど、佳奈は少し微笑んでゆっくりと立ち上がった。
ぎしり、ベットがきしんで、佳奈が部屋を出て行くのがわかった。

幸せになってね、か。
なれるのだろうか、俺は、また有海の前に姿を表していいのかわからないけど、それでも俺はようやくわかった自分の気持ちを大切にしたいと思った。


向かうべきは一つ。




**




一度だけ、ホテルで彼女の通っている大学について名前を聞いたことがあった。
都内の女子大で、有名な大学だったので覚えている。それだけで、今はいい。手がかりさえあれば、必ず見つけだして、俺の気持を伝えたい。

大学の最寄り駅でおりて、大学へと歩いた。
ほどよく繁る緑の木の道の、葉っぱで影になったところを一足ずつしっかりと踏みしめて。






「有海、」

「…え?幸村?」



ーーーきた。
午前中から大学の1番大きな入り口に立ってずっと待っていた。女子大だからもちろん通るのは女だけで、何人か声もかけられたけど適当にあしらった。俺が待ってるのは一人だけ。

一日で会えたのは偶然だったけど、運さえも見方についている気がした。
有海の目が驚きに見開かれて、ゆっくり後ずさるのが見えた。




「待って!聞いてほしいことがあるんだ。
俺は、散々君を傷つけたけど、それでも有海が好きなんだ。」

「な、に言ってるの。」

「今更かもしれない。でももし、有海がまだ俺のこと少しでも好きでいてくーーー」



そのあとは言えなかった。
有海が遮るように、ぎゅうと抱きしめてきて、暫くぶりの彼女の匂いがふんわりと俺をまとった。



「ばか。ばーか!」



少し涙声の彼女が愛おしい。
セフレだったときの有海とは違う、好きの気持ちが伝わってきて、嗚呼、これがきっと幸せなんだ。


ごめんね、今度は間違えないから。




溶けているだけなら構わない



title.彼女の為に泣いたさまよりお借りしました。


あとがき
幸村短編
まばたきすら忘れたの続編で、切甘ということでしたがどうでしょうか。

わたしも続き書きたいと思っていたので、かけてよかったです。切甘にはなりませんでした、すみません。


おそくなりましたが、よかったらどうぞ。
はるさまのみお持ち帰り可能になります。


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