別れると言ったのは、私の為なんかじゃなかったの。
覚えているのはあなたの笑顔、忘れないのはあなたの泣き顔
正式に離婚が成立して、半年がたった。
一つ分かったことは、彼はもともと別れるつもりだったということ。
最初から言っていたのにどこか期待していたのかもしれない私は、変わらない彼の態度が辛くなっていた。
公の場に、妻として私を全く出さなかったのも、ごく僅かな人間しか結婚を知らせていなかったことも全て、こうなることが前提で。
別れても後腐れがないようにするためだったのだと分かった今は、彼のすること全てに納得がいっていた。
これでよかったんだよね、景吾さんの幸せの為には、私はいらない存在だったんだね。
進藤の家、私の実家にいま住んでいるけど、ここはすごく居心地がよくて、次第に傷を埋めていった。
ここが私のいるべき場所なんだなあ、なんて毎日手入れされた庭をみて思う。
きっとあそこにいたことが幻みたいなもので夢を見ていたんだと思えば景吾さんを想ってなくこともなくなった。
穏やかに過ぎて行く日々、家のことを手伝いながらこれからのことをゆっくりと考える。
私にできることはなんだろう。幸い、家は弟が継ぐことが決まっているし、やっぱり私はどこかに嫁ぐのが一番で。でもいくら跡部家とはいえバツイチを受け入れてくれる家はなさそうだ。
「悠、一緒に勉強してもいい??」
「姉ちゃん!いいよ、俺が教えてやるよ。」
それならば、弟の仕事の手伝いをしようと最近はまた経済を学びなおしている。
五つ下の弟は本当に私のことが好きで、だからそこは知ってるよなんて言えないまま厚い参考書を開いた。
「あー、疲れたー。
休憩にしようぜ。なあ、姉ちゃんもそう思うだろ?」
「うーん、そうね。
じゃあお茶いれてくるね。」
「おー、ありがと。」
もうそろそろ集中がきれるころだったのでちょうどいい。勉強していた弟の部屋から出てキッチンへ向かう。ついでに弟の好きなチョコレートももって行こうかなとか考えつつ、全てをお盆にのせる。
途中で運ぶのを代わろうとするお手伝いさんを無言で手で諭しながら持っていく。
ドアを開けて、机におこうとしたときにそれは聞こえた。おそらく休憩中に悠が見ようとしたのだろうテレビの司会者の声がやけに鮮明に耳に入った。
ーーー女優の"佳奈"、マンションでお泊りデート!!
お相手はあの跡部グループの子息"跡部景吾"か?
どういうこと?
頭がくらくらして、でもそれだけはすとんと頭に落ちてきた。
そっか、そういうことだったんだ。
好きな人がいるのは景吾さんの方で、いらないのは私だった。はじめから結婚なんかしたくなかったんだね、だって景吾さんには彼女がいるんだね。
相変わらずテレビでは"佳奈"の顔が大きくうつっていて、彼女は同性の私からみても美しくて、笑顔が可愛くておまけに性格もいいらしい。
まったく勝ち目がないじゃないか。
勝てるだなんて思ってもいなかったけど。
はやく、忘れさせてほしかった。
結局どれだけ経ってもすぐに彼のことを想ってしまう私がいて、それが酷く辛かった。