「あっつ…。」
夏が来た。
誰もが嫌いなうだるような暑さもすぐそこにある。生温い風がふいて都会にしては珍しく植えられた木の葉が揺れていた。
季節通りにセミが煩い。
ーーー夏は彼にあの人のことを思い出させる。
じりじりと照りつける眩しい太陽を見上げて仕事用の鞄を持ち直して思う。
私は彼の何だったんだろうか。
あの夏、蓮二と付き合い始めてから気がついたら5年が過ぎていた。
出会った時は大学生だった私ももう社会人だ。時がすぎるのはこわい。あっという間に時間は流れていく、今日も明日も。
それなのに、彼の時間はまだ止まったままで永遠にあの人しかうつさないのだろう。蓮二を変えられるのはあの人しかいないと分かっていたのに、どこか期待していたのかも知れない。
仕事の挨拶から帰ったあと、外が暗くなりかけたオフィスからでて廊下で携帯を開いた。電話帳から彼の番号を探す。
「ごめんね、仕事が終わりそうになくて、今日は行けない。」
「わかった。」
「じゃあね。」
「ああ。」
あっさりと切られる電話が少し寂しかった。この就職難に仕事があっただけでも有難いのだが、なにぶん新人も忙しい会社だった。期待されてると、自分に言い聞かせないとやっていけないくらいには。
仕事内容を覚えていって、だんだんと要領も掴んでいくのと反対に蓮二との時間は減った。
もとから私から会いに行くことばかりだったから、私が行かなきゃもちろん会うことはない。
いつだって、想うのは私だけだった。
私が無理やり取り付けたレイトショーの約束は守れなかったけどなんとも思ってないのだろう。代わりに打った好きだよ、のメールに返事はない。
あなたが好き。
でももう潮時なのかもしれない。
で、自然消滅を狙うヒロインと、ヒロインに歩みよれなくなってどんどん戻れなくなる柳とかみたい。
ヒロインが自分から離れていくのをデータ的にもわかっているのに何も出来なくて、なんとか持ち直してヒロインのとこ行こうとしてヒロインが事故に合うのをみちゃう。
むかし亡くなった幼馴染の元カノとかぶって、取り乱すけどヒロインに「私はあの人とは違うんだよ。ごめんね、私で。」って言われてわーってなって。