戯れ


上へ伸ばした手で結われた髪を解いた。後頭部で一つにまとめられた黒い毛がハラハラと落ちて、 私に覆い被さった男の顔つきが普段よりも大人びた印象になる。髪を下ろすと見た目の年齢に差が出るのは男女共通なんだということを傑と知り合ってから初めて気付いた。

「コラ。またやったな」
「傑、髪下ろしてる方が似合うよ。冬だけでいいからずっとそうしてて」
「……考えておく」

指先でヘアゴムを弄ぶ。擦り切れそうなつなぎ目に爪をかけていると私とは違う節くれた指が輪っかを取り上げてその辺に放った。

「無くすよ」
「また買えばいいさ」
「そう言っていつも買わないじゃん。私から借りパクするじゃん」
「さて、どうだったかな」

はぐらかされた。私は今年に入ってからだけでも傑にたくさんヘアゴムを貸しているし、返ってきた試しはない。
どうして髪を伸ばしているのかと聞いたとき、傑はどうしてだったかな、と曖昧な返事をした。呪術的な理由があるのかと思っていた私は拍子抜けして、じゃあ意味ないのに伸ばしてるんだ、なんて今思えば失礼なことを言ったことがある。そんなやり取りをしたのももうずっと前、私と傑が付き合い始める前の話だ。

「さむい」

ぽつりと呟いた言葉にスカートを剥いでいた傑の手が止まる。ニットの下に潜り込んだ冷たい手もぴたりと動きを止めて、服から抜き取られた手が枕元のリモコンを掴んだ。身体の奥はすごく熱いのに、室温のせいで肌が粟立っている。

「外、まだ降ってる?」
「かなり。明日積もるだろうね」
「東京なのに」
「都内でも山の方は結構降るらしいよ」

朝から雪が降った今日、私達は予め立てていたデートの予定を断念して暖房の効いた室内で過ごしていた。山から降りるのがしんどいとか電車が止まったら困るとか、二人でそれっぽいことを言い合っていたけどきっと腹の底では同じことを考えていたと思う。その証拠に年相応の健全な男女らしく過ごせた時間なんて三十分も無かった。隣で本を読んでいた傑の頬にキスをすると唇にし返されて、口の中が熱いと言うと次は舌をねじ込まれる。何度も口を合わせている内に備え付けのベッドへ縫い付けられて、そのまま。年頃の男女なんて人の目が無ければこんなものだ。

「少し上げておくから、寒かったらまた言ってくれ」
「傑は寒くないの?」
「私は全然」

軽快な電子音が二回、二度も温度を上げたら暑すぎるんじゃないかと思ったけど、寒いと言い出した手前言い出しづらい。
備え付けの古いエアコンが重い音を立てる。その間にボタンが外されて腰に引っかかっているだけのスカートを抜く。起き上がるとベッドの脇に最初に脱がされたタイツの残骸が見え、そこへ脱いだばかりのスカートも落とした。隣では傑が上の服を脱いでいて、男と女はどうして服を脱ぐ順番が違うんだろうとどうでもいいことを考える。

「傑、」
「ん?」
「これ、脱いでるところ見るのと脱がせるの、どっちがいい?」

自分のニットを指して質問すると、傑はしばらく考えたあと、こんな下らない問いに真剣な顔をして「残しておいてくれ」と答えた。その様子がおかしくて私はお腹を抱えて笑う。

「前から思ってたけど、傑って意外と」
「皆まで言わないでくれるかな?私だって年頃なんだ」

珍しくムッとした顔をする傑に体を組み敷かれる。これ、五条の喧嘩したときに良くしている顔だ。拗ねたのかな、なんて思っている間に傑の手で顎を掬われ、柔らかく噛みつかれる。ゆるく口を吸われ、少し開いた唇の隙間から柔らかい舌を差し込まれた。湿っぽい音が脳内に響いて背中がゾワゾワする。これは寒さとはまた別のものが原因だ。
頭の奥がぼんやりしてくると残すように言われた服を肌着ごとまくり上げられる。外気に触れた肌が震えた。エアコンの温度、上げ過ぎだって思ったけどやっぱり丁度いいのかもしれない。




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