『ねえ、もう遅いけど、寝なくていいの?』

 電話の向こう。琉夏くんがずいぶん前からそう切り出そうとしていたことは、なんとなく分かっていた。
 うーん、とあいまいな声を出しながら壁にかかった時計を見上げる。針は二本とも頂点に到達しようとしていた。

「……わたしは大丈夫。今日昼寝しちゃったから、眠れなくて」
『知ってる。それで俺の電話出れなかったんだもんね』
「うう……ゴメンね」
『カワイイから、許す。ホントはデートに誘おうと思ってたけど、結局同じくらいおしゃべりできたし』

 笑みを含んだ琉夏くんの声が揺らぐ。それと同時に、ギシリと痛々しいような寂しいような音もして。

「琉夏くん、いま、ベッドに寝転がった?」
『うん。よくわかったね。さては、オマエも同じ体勢?』

 どうでしょう? と笑いながら膝のうえのクッションを放り投げた。
 琉夏くんは「そうだな……」と唸って思案を始めてくれたみたいだけれど、そのあいだにもカチカチと進んでいく針の音が、私にとってはちょっと憎らしい。
 本当はこんなの、会話を引き伸ばす口実でしかない。
 ――もうちょっと話してたいんだけど、だめ?
 と言えればいいのかもしれないけれど、あと一ポイントの勇気が足りない私は、さっきからクッションを放り投げてはキャッチして、鼓動を誤魔化している。

『うーん、わかんないや。頑張って考えたんだけど。だから、延長していい? もうちょっと考える時間ちょーだい』
「……うん! いいよ」
『やった。……ふふ』
「琉夏くん、なに笑ってるの」
『ううん。もうちょっと話したいなら、そう言えばいいのに。……でもホント、カワイイ』

 からかうような、噛み締めるような言い方に、顔中が一気に熱を帯びていく。これが電話でよかった。目の前に琉夏くんがいたら、きっともっとからかわれていた。

『……あーあ、黙っちゃった。でもホントのホントの話すると、俺だって電話切る気、なかったけどね。優しい男だと思われたかったんだけど、どうだった?』

 それをわざわざ聞いてしまうところが、琉夏くんらしいと思う。
 「イジワルだと思った」と答えたら、私にそう言われるのは十億年前からわかっていたみたいな柔らかな笑い声が、鼓膜をくすぐった。

お題ったー「素直じゃないとこも可愛くてよろしい。」でSS
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