並んで向かい合ったテーブルのうえで、爆豪のスマートフォンがチカリと点滅をもって主張する。にも関わらず、彼の慳貪な視線はそれよりはるか上、テレビの中で繰り広げられる銃撃戦から逸れやしない。
 見なくていいのかと尋ねても「めんどくせえ」「どうせババアからだ」というかさついた答えがぽつり、ぽつりと溢されるだけだった。
 大体いつも用件のみの五文字程度、あまりに純度の高すぎる爆豪からのメッセージの文面を思い出して

「爆豪って浮気しなさそうだよね」

と言うと、

「てめーはまた、どっからどう飛躍したらンな話になんだよ」

ともはや呆れ混じりにため息を吐かれた。
 口直しをするみたいに、タンブラーの中のコーラをごくごくと飲み干す彼に説明をした。
 浮気する人の特徴に、「SNSがマメな人」って入ると思うんだよね。つまりマメってことだから、女の人の一人や二人、華麗に捌けると思うんだよね。
 だから、そうじゃない爆豪は浮気しなさそうってこと。あ、不器用って言ってるんじゃないからね?
 わざわざフォローまでしたけれど、聞いているのか聞いていないのかわからない。そもそもどっちでもよかったけれど。
 爆豪はタンブラーをカンとテーブルに置くと、清々しく口元を拭う。

「……くだらねえ。お前みたいな面倒な女ァ抱えてんのに、これ以上手間増やせっかよ」
「面倒、は余計だよ」
「安心しろっつってんだよ。なんなら全部読み上げろ、てめーが、俺宛の連絡も」
「ロボットじゃあるまいし。それに、不安になんて」

 なってないよ、と言う前に黒いスマホがぽーんとお腹の真ん中に放り投げられる。
 ボールとかぬいぐるみみたいに扱うのはやめたらどうかと、何回も言っているのに。「壊れたらそれまでだろうが」と身も蓋もないことを言いながらも、私が買ってきたスマホケースにそれを大人しく嵌めているところとか、一ミリの素直さがまた愛おしいのだ。

「じゃあ、ほんとに見ちゃおっかな〜」
「勝手にしろ。その代わり、面白いモンなんかねーぞ」

 私の冗談を冗談とは撮らないで、爆豪は逞しい脚を組み替えて、ソファに白い髪を埋めてしまう。

「まあ、パスワードわかんないからいいや」
「すぐわかんだろ」
「わか……んなくない? あ、もしかして私の誕生日とか?」
「誕生日じゃねえ」
「じゃあ、私の何かってこと? 好きなところ、とか?」

 さすがにふざけすぎて怒鳴られるかな、と思いながらも爆豪が上機嫌であることは察している。どこまでならいけるか、と冒険者よろしく、危険も顧みずにねえねえとゆったりした部屋着に包まれた固い肩にもたれかかってみる。微動だにせず、無言のままの、岩のような彼が寄越すのは静かな肯定だった。

「……えー!? ほんとに?」
「うるせえ。なんでもいいだろうがパスワードなんか。パッと思い付いたのがソレだったんだよ」
「ソレって、ドレ?」
「てめーで考えろ」

 エンドロールを迎えたテレビの画面を、リモコンでさくさくと切り替えながら、爆豪は突き放すようなことを言う。
 弾んで、くすぐったいような胸の内をまだ収められずにじっとその横顔を見ていると、煩わしそうに赤い瞳で睨み返された。

「……見んな、コッチ。そんぐらいすぐわかれ。何年一緒にいんだよクソが」

 ようやく照れているのが私だけじゃなくなったことがわかってほくそ笑むと、あろうことかリモコンの裏で頭を叩かれる。
 爆豪のことぐらいしか考えてない頭は、ペコンと間抜けな音を立てた。

(お題ったー「パスワードは2万通り」よりSS)
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