「教科書届くまで、隣の子に見せてもらってね」


転校初日。
笑顔の素敵な担任の前田先生ににっこりと宣告され、私の目の前は真っ暗になった。
なぜなら私の横に座る生徒は、両隣ともなんか怖かったからだ。

左の人は右目に眼帯をしていて、右の人は左目に眼帯をしている。
眼帯ばっかじゃねーか。なんだこの眼帯密度。おかしいだろう。流行ってんのか。いやありえないだろう。

混乱する頭にチャイムが鳴り響き、無情にも一限目の授業は開始された。

教科書112ページ開けー。
頬の傷がなんともヤクザな歴史担当片倉先生の声が私の背中を後押しする。

私は十五秒間にわたる厳正な自分会議の末、勇気を出して右隣の男子生徒に声をかけた。
(目付きの悪さ→引き分け、取っ付きやすさ→引き分け、髪の毛の色→銀髪−1茶髪+1、の結果だ。)


「あの、教科書見せて貰えますか」

「…っしゃー!Yes!だから言っただろ元親!」

「うわっ、なんでたよックショー…!」

「賭け通り今日の昼飯奢りな!焼きそばパンとメロンパンと珈琲牛乳でいいぜ」

「あーあーわかったよ。ってかあんた、なんで俺じゃなくて政宗?」


左右から嫌に顔の整った眼帯の男に見上げられ、私は言葉を失った。
何この展開。とんでも設定の多い最近の乙女ゲーにだって、こんな無茶な出会いはないよ。眼帯ハーレムって誰得だよ。両隣イケメンまではいいとしても、両方眼帯属性っておかしいだろ。どんだけマニアックな設定だよ。片方が不良の眼帯くんなら、もう片方は正統派眼鏡男子とかそうゆう配慮は必要だろ常考。だってこれどう見ても二人ともガツガツの肉食系だよ。竜か鬼かって感じだよ。こんなのに挟まれてちゃ私の体がもたないよ助けて神様、ってかさっきから面白そうにこっち見てるオレンジ頭、あんたでいいからどっちかと席変われ。眼鏡男子と言わないまでも、あんたならマイペースそうだしバランス取れるよ。それなら私も文句は言わないよ。


「「おい聞いてんのか」」

「…すみません」




そんなしょうもない出会いを果たした私たちだが、思いのほかうまが合い、いつの間にかつるむようになっていた。

三人で授業をサボったり、下らない賭けをしてお昼を奢ったり奢られたり、自転車の三人乗りを試みて元親の愛車を壊してしまったり、政宗の家に遊びに行ったら超豪邸な上に何故か歴史の片倉先生が居てびびったり、二人のファンから戴いた呼び出しという名のプレゼントに二人がキレたり、喧嘩したり、仲直りしたり、誰か二人が喧嘩したら残りの一人が仲裁したり。

第一印象が「キャラ被り」だった二人だけれども、そうやって付き合うに連れて、それは私の早とちりだとわかった。

二人とも女の子によくモテて、男の子から妙に慕われるという共通点こそあれど、その性格は似て非なるものだった。

子供みたいな素直さと暖かさを持った元親と、大人びてる癖にどこか寂しげな政宗は、周りを照らし惹き付ける部分では同じだがその色は違う。

元親が太陽なら政宗は月だ。

無駄に自信家な男二人が並んでいる様はとにかく目立ったが、政宗の方を目に留める女の子は、その光の中に敏感に影を見つける類の子だろう。
私の見る限り、政宗は母性の強い子にモテる傾向があった。

そしてどうやら私もその一人のようだ。


「本当に付き合うのかよ、政宗と」

「うん。昨日ね、告白した」

「…そうかよ」


放課後の教室で、元親に問われそう答える。
政宗は「お呼びだし」がかかり屋上に向かっていた。まあ日常茶飯事だ。政宗の「お断り」の理由以外は。
ちゃんと彼女が出来たと言ってくれてるだろうか。


「悪ぃけど、今までみたいに三人ではいられねぇぜ」

「うん。わかってる。ごめんね元親」

「謝んな。それにしても、お前はいつだって政宗を選ぶんだな」


彼は初めて会った日のように「なんで俺じゃない?」とは聞かなかったけれど、すごく淋しそうで、私は無性に悲しくなった。

政宗を待たずに教室を後にする元親の銀髪が、低い太陽に照らされてキラキラと光る。
もうじきそれは地平に沈み、月が昇る。






月と太陽と私




同時に浴びるなんて、できない光なんだ。



by seven.



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