「名、dateしようぜ」


政宗様がこうゆう顔で近寄ってきた時は注意しなければいけない。
異国語を織り交ぜていたなら尚更だ。

私は以前彼に全く同じテンションで「名、Kissしようぜ」と言われたことがある。当然私は聞き返した。


「政宗様、きすとはなんでございましょう」

「Ah-han?こうゆう事だよ」


彼は言うが早いが私の口を吸った。
私はその彼を、反射的に殴り飛ばした。
それはもう豪快に。強く。たくましく。

結果私はその一部始終を目撃していた片倉様に、一週間早朝畑仕事の刑を宣告されたのだ。

私はまったくもって納得いかなかったけれど甘んじてその処罰を受けた。
断ろうものなら打ち首だと言わんばかりの形相で片倉様に睨まれたからだ。あの親バカ、もとい家臣馬鹿め。

それなので今回私は、じりっと一歩距離をとってから慎重に問い掛けた。


「でぇと…。でぇととは、一体なんでございましょう、政宗様」

「まぁそう警戒するなよ。dateってのはいいもんだぜ」

「それは双方にとって、でしょうか。もし違うのなら、私はまた早朝畑仕事を一週間もしなければならなくなります」

「Ha,手厳しいな名。でも心配するな。dateはお前の許可がなきゃ出来ないことだ。だから聞いてる」


きすに許可はいらないとでも言うのだろうか、といういちゃもんを飲み込んで、私はもう一度尋ねる。


「それで私は何をすれば?」

「一緒に出掛けてくれればいい。dateってのは、仲の良い二人が連れ添って出歩くことだ」

「はぁ。そこに性的な意味が含まれてないのなら、喜んでご一緒します」

「…ねぇよ」


その間が若干気になったけれど、私は渋々了承した。


そしてこの有様である。


私たちは狭い路地の間に挟まって、ハァハァと息を荒くしていた。


「ま、まさむねさま…っ、まだですか…っ」

「ああ、もう少し我慢してろ」


ことの始まりは半刻ほど前。

騒ぎにならぬよう軽く変装した政宗様と、小間物屋に入って簪を買ってもらったり、甘味屋に入って団子を頬張ったりして、私は「なんだ本当にいいもんじゃないかでぇと」とか呑気に思っていた。

甘味屋から出て、二人でゆっくりと川沿いの城下町を歩きながら、私は政宗様に言った。


「これなら定期的に誘って頂いても構いませんよ」

「そうか。やっぱり恋人同士にdateは欠かせねぇよな」

「…でぇとに性的な意味は含まれないとその口から聞きましたが」

「もちろん友人同士でもdateはするぜ。そしてそこからloveが生まれるもんだ」

「生まれません。らぶが何だかは知りませんが、きっと生まれません」

「甘いな、dateにはhappeningが付き物だ。気い抜いてると…」


そこまで言って彼ははたと言葉を止めた。


「政宗様…?」


不審に思って顔を覗き込む。先程までニヤニヤと上がっていた口角は一文字に引き締められ、眉間には皺が刻まれていた。

びっくりした私が肩に触れようとすると、その前に大きな手で口を塞がれる。
ええっはぷにんぐってこうゆうこと!?ってどうゆうこと!?やっぱり政宗様の使う異国語にろくな物はないな。
とか思いながら混乱していると、今度は突然体ごと抱え上げられ混乱は頂点に達した。


「政宗様!?」

「Sit!名、ちょいと揺れるぜ」


米俵のごとく私を肩に担ぐと、彼は飛ぶように駆け出した。
揺れる視界の中、さっきまで私たちが立っていた場所に無数のクナイが刺さっているのが見えた。
ひやっと全身が総毛立ち私はやっと状況を理解する。
敵方の奇襲だろう。まあこんな所でぱっと見丸腰の姿でぶらぶらしていたのだから、当然っちゃ当然だ。だって変装、ちっとも役に立ってないもの。どっから見ても伊達政宗だもの。

そのまま走って走って、大分走ったところで政宗様はきゅっと角を曲がり、人二人がやっと収まるような堀の外壁の隙間に私を押し入れその体で蓋をした。


「たぶん巻いたと思うが、しばらくやり過ごすぞ」

「はぁ、っはい」


そんな訳でこの状況。

私は彼の肩にしがみついていただけだというのにへとへとに息切れし、思わず胸にもたれ掛かった。


「政宗様…っ、これが、でぇとに欠かせないはぷにんぐとやらですか」


それならやはり、定期的なお誘いというのは考えさせて頂きたい。

見上げればもうすっかりいつもの落ち着きを取り戻した政宗様が、またあの顔をしていた。気を付けなければいけない時の顔だ。
私はもう少し慎重に質問をすればよかったと後悔した。


「そうだ、dateにhappeningは付き物。そしてhappeningを通じてloveが生まれ、」


そこまで言うと彼はやはり突然に私の口を吸った。


「Kissにたどり着くんだよ」


はぁ、本当に異国語ってろくなもんじゃない。

私は聞かなくてもわかってしまった。
きっと私の心にたった今生まれたこれが、らぶ、だとでも言うんだろう。





楽しい英会話教室



答え合わせはまた後ほど。


by seven.



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -