変換

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城へと繋がる坂道を二人で歩く。
きんと冷えた空気は、澄んでいる分闇が深い。
俺は城下から続く長い坂を上っている間ずっと、自分の三歩後ろを歩く女のことを考えていた。
今まで考えることから逃げてきた分思考はまとまらず、もうじき坂道は終わってしまう。

nameは伊達の人間ではない。
他方からここに嫁いで来た者だ。

そもそも祝言さえ上げていないのだから嫁ぐと言うには語弊があるが、こいつが俺のために米沢の屋敷に寄越されたことは明らかだった。

それなのに忙しいという理由で、核心に触れず、手を出すこともせず、執務に戦に時間を費やしているうちにとうとう今日まで経ってしまった。

なんとも宙ぶらりんな立場のまま城での暮らしを強いられ、こいつもさぞ所在無い思いをしてきたことだろう。口さがない噂だって立っていたかもしれない。

それでもこいつはいつも優しく笑っていた。望んで選んだ場所でもあるまいに。
こんな時代だからこそ、男は全力で女を幸せにしなきゃいけないのかもしれない。
ふつふつと心に沸く感情が、義務感などではなく単純な欲求だということに気づいたのは、つい先程のこと。


春が来ればこの寒々しい上り道も桜坂へと変わる。
空を見れば葉の落ちた桜の枝が重なるように頭上を埋め、その隙間にたくさんの星が瞬いていた。


「綺麗ですね」


後ろから聞こえた鈴のような声に、そうだなと相槌をうつ。

足を踏み出すたび、今まで押さえていたいろいろな物が高ぶっていく。自分が自分じゃないようだ。

上りきったら、言おう。


何をどう言うかも決めないうちに坂道は頂上を迎え、それでも一度加速した心はおさまらず、俺はとりあえず振り返りnameを抱きしめた。

何が起きたのか解らないといった様子で固まるそいつの、耳に口を寄せ名前を囁く。
あ、と小さな声を漏らした唇を、自分のそれで塞いだ。
頭二つぶんの身長差に自然と体が離れる。それが焦れったくて、でもどこか甘くて、悪い気はしない。

恋を覚えたての少年のように軟弱な自分の思考に呆れたが、悪くないと思った。


「name、」

「は…い」

「これからも、今までみたいに寂しい思いをさせる事はあるかもしれねぇ。いや、たぶんさせちまう。俺は、」

「……」

「どこまでいっても夫の前に家臣、男の前に侍だろう」

「…はい」

「それでも、後悔だけはさせねぇ。…約束する」


そこまで言ったところで、nameの目から零れた涙があまりに綺麗だったから。肝心なことを告げる前にもう一度口付けてしまった。

気が済んだら今度こそ、言わせてくれ。






幸せは、途切れながらも


続くのです。




#スピカ
『小さな恋のメロディー』提出
by seven.



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