「…name殿」
「なんですか、幸村様」
振り返った彼女は笑顔。嬉しいはずなのに、何故か締め付けられるように胸が痛む。徐に正座をした俺を見て、彼女は少し目を大きくした。
「name殿、某は…」
言葉が続かない。彼女は不思議そうに洗濯物を畳む手を止めた。じっと見詰められて、その無垢な瞳に吸い込まれそうになる。そう、この状況下において、彼女の心には悪意や殺意が無いのだ。
何も言えずに黙っていると、彼女は小さく息を吐き困ったように微笑んだ。
「幸村様」
「……」
「…例の件は、お気になさらないでください」
あれは仕方が無かったのです。幸村様が気に病むことではございません。
自分の情けなさに力が抜ける。慰めるどころか、逆に気を遣わせてしまった。彼等を守りきれなかったのはこの自分だというのに。悼む言葉や謝罪を口にするのも何か違う気がして、やはり何も出てこなかった。ぎゅっと目を瞑る。
「…彼も私も、誰も恨んでなどいません」
ふと優しい香りがして、彼女の吐息が耳元にかかった。驚いて目を開けると、見えるは漆黒の髪とその向こうに綺麗に畳まれた衣。
「あ…」
「…それでも、私たちのために泣いてくださるのなら、」
「それだけで、皆救われています」
どうして気持ちというものは、そのまま直接伝わらないのだろうか。彼女の痛みや苦しみは自分が背負うべきであるというのに、それを代わりに請け負うことは不可能だ。上辺だけの言葉からなんて、本当の気持ちはこれっぽっちも受け取れない。もどかしい。
知らずと零れた涙は、彼女の細い指先に掬われた。
ふたりがひとつだったなら「だから、幸村様は戦ってください」
皆のために。
そう言って笑った彼女に、少し救われた気がした
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