きゃあきゃあと黄色く響く女の子たちのかわいらしい声。
その中心にいるのは、ひと際目を引く派手な形をした、でかい男。
へらりと形容できる笑みを浮かべて軽口を叩くその男を見るのはこれで何度目だろうか。


「お、名じゃねェか!」

「あぁ、どうも」


チッ、気づかれたか。
普段ふらふらしているくせに妙なところで聡い男。
喧嘩が好きとは聞いていたけれど、その感覚の鋭さはどちらかと言えばもっと実践的なもののような気がする。


「慶ちゃん、次はいつ来るのぉ?」

「あーわっかんねぇや、悪ィね」


片眉を下げて笑うその横顔を一度睨んでから、彼の横を通り過ぎるべく一歩踏み出す。
しかしそんな簡単なこともできず、あたしの腕は彼の手によって掴まれてしまった。


「…何よ」

「何でそんな不機嫌なんだよ、折角晴れてんだしさ、もっとこー笑顔でいよーぜ」

「うるさい。貴方には関係ないでしょう」

「…なァ、」

「だから、何、」

「名、ちゃんと俺の名前呼べよ」


掴まれた腕にこもる力が厭わしい。
今更どの面さげてそんなことが言えるのか甚だ疑問だ。


「その場凌ぎの約束をするような男に用はないの。離して」


何が風来坊よ。
いつだってその場凌ぎにフラフラしているだけじゃない。
こんなにもイライラするのは、それでもあたしが彼と交わしてしまった約束にある。


「あー、それはホラ、絶対守るからさ」


あぁ、イライラする。
「俺、名のこと好きだからさ」そんなセリフを困ったような笑顔で吐いたこの男にも、
そしてそれを真に受けてしまった自分にも。


「アンタ、真剣な気持ちってもんをどこに置いてきたのよ…!」


言ってからしまった、と思うのに、さして時間はかからなかった。
目の前で表情を苦々しく歪める男。
ぜんぶ受け止めてほしいから、と前置きがあって聞いたはずの彼の真実。
今のあたしの言葉は、彼に投げるにふさわしくない。


「ご、めん」

「ん、いや。…こっちこそ」


先ほどまで近かった黄色い声色はあたしたちの関係をそれぞれ想像したらしく、今は散り散りにどこにいったのかもわからない。
うっとうしかったはずなのに、今では彼女たちの誰か一人でもこの場に来て、この男を連れて行ってくれたらいい、と願う。
そして彼を抱きしめてあげてほしい、慈しんでほしい、誰か、この人を愛してよ。
彼の方では小さな猿が、どこか心配そうにこちらと交互に忙しなく見つめる。


「、あたし、もう行く」

「俺はさ、諦めたくねェんだよ」

「…何のはなし?」

「名が俺のこと、どんくらい想ってんのか」

「……だから何の話よ、」

「それでも俺ァ、名には真実をあげてるつもりなんだぜ」


その場から逃げ出すのに、思考は必要なかった。
受け止める気がなかったわけじゃない、抱きしめるつもりがなかったわけじゃない、慈しみたかった、愛したい。

それでも、


彼自身にそのつもりがないのに、あたしにどうしろって言うの。






蜜色の悲劇





何が真実なのか、家に飛び込んだあたしは背を戸に預けて息を吐く。
思いのほか震えていた息に、あれ以上何か喋らなくてよかった、と心から思う。

受け止めさせてよ、抱きしめさせてよ、慈しみたい、愛したいよ、あなたの全てを。

結局、真実をあげていないのは、あたしの方だった。


「慶次のばか!…ひとつくらい、約束守ってくれたっていいじゃない…」



"次にここにくる時は名のお迎えだなぁ。京にでも連れてってやるよ!"






by six.



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