「あれ、何してんの」

「暢気に茶ぁしばいてるのよ、佐助」

「女の子がそういう言葉使っちゃいけません」


旦那に頼まれて買ってきた団子の包みをぶら下げて縁側に下りる。
しかしそこにいたのは旦那じゃなくて名ちゃん。


「旦那は?」

「ちょっといじめたら出て行っちゃって」

「…あんまりいじめないでよねー」

「はぁい」


少し高めの声はひたすらに澄んでいて、彼女が藍色の着物の袷をひく指先は長い。
一瞬だけきれいだなぁ、と思ったところで、違和感に気づいた。


「ちょっと、なんでそんなに着崩れてんの」

「うふふ」

「待って、名ちゃん旦那に何したのさ」

「うふふ」


着物の裾も乱れ、隙間から覗く足は当然ながら傷ひとつない。
やっぱりきれいだよなぁ。

こういうときの名ちゃんは、不都合なことを聞いても決して答えてくれない。
細い首筋で長い髪の毛が揺れて、その髪先を少しだけうっとうしそうに払う。
そんな些細な仕草でさえも酷く艶っぽいものだから始末が悪いと思う。


「佐助!」

「あ、旦那ー!団子だよー」

「うむ!」

「もう落ち着いたかしら」

「な、なんでまだここにいるのだ!」

「やだ、私がどこにいたって私の勝手じゃない」


俺の手からひょいと一本団子を取り上げる名ちゃんは、いつだって飄々として掴みどころがない。
以前それを本人に言ったら「アンタに言われたくないわ」と言われたけど、俺様は忍だからいいと思うんだよねー。


「旦那、落ち着いたって何の話?」

「は、は、破廉恥でござる!」

「名ちゃん、旦那に何言ったのさ」

「えぇ?"破廉恥って騒ぐけど、その破廉恥なことに興味が尽きないお年頃でしょう?"って」

「それだけ?」

「うふふ」


あーん、と口をあけて団子を食べる口元は薄い桃色。
覗く歯すら、白く小さく綺麗だというのに。


「名ちゃん、絶対外見と中身が間違ってるよね」

「佐助!何を言う!名殿は、名殿はこのままでいいのだ!」

「うふふ」


散々文句を言って逃げ回っていたくせに、なんだ、意外と満更でもないのか。
赤い顔を隠そうともせずに団子を食べていく旦那、そしてそれを見つめる名ちゃんは、優しい笑顔。


悔しいけどさ、何より綺麗なのは、旦那を見てる時の名ちゃんなんだよねぇ。





RED READ ME!





「"見てる"んじゃなくて"見守ってる"のよ、佐助」

「読心術?!」

「何の話でござるか?」

「あんまり甘いものばかり食べてると、精子も甘くなっちゃうわよって話」

「は、は、は、」

「うふふ」

「破廉恥でござるぅぅぅ!!」


俺は名ちゃんの心なんか読みたくないけどね!





by six.



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