縁側から畳へと、畳から真白い布団へと、そして枕へと、辿るように流れる赤褐色を見つめながら、私は真正面で揺れる銀のかみを見ているのです。


城内が静まり返った夜半のこと、悲痛な咳を聞いて私は居ても立ってもいられずに、立ち上がりました。
白湯と、医師から預かった粉末状の薬包を用意して、誰にも見つからないようこっそりと。

伺いを立てずに部屋へ入っても咎められない特権を使って、静かに室内へ滑り込ませた身体。

彼は私の姿を捉えるなり、酷く安堵したような表情を浮かべたあと、私の持つ薬と白湯とを半ば奪い取るようにしてお世辞にもおいしいとは言い難い薬を一息に嚥下したのでした。

そして薬を飲み干した彼は、何を思ったのか私を真白い布団へと組み敷きました。
額に滲む汗が苦痛を物語っております。
点々と布団を汚す赤は既に錆色に変わり、彼は私の首筋にその冷えた唇を押し当てました。


「名、君はこんな僕を情けなく思うかい」

「いいえ、名はあなたの全てを誇らしく思っております」


きっと、それが合図だったのでしょう。
ご無理をしてはいけないからだ、そうは理解していても、彼の手があまりにも優しく私のからだをなぞるから、私は抵抗することも忘れてただ彼の手に身を任せてしまいたくなったのです。


「名、…ここは、どうだい?」


彼の唇が胸の突起を掠め、彼の指が下肢を撫でるその感覚にふるりと身体を震わせながら、それでも私の口から零れるのははしたない息遣いだけ。
それを彼は切なそうに、嬉しそうに目を細めて、空いている手で頬を撫でてくださいます。


「とけて、しまいそう…」


彼の触れた箇所から、皮膚がとろりと融解していくような錯覚に襲われます。
彼が口付ける首筋も、胸元も、臍の上も、彼が触れる大腿も、そして、私の女の部分も。


「…ここは、とけているようだけれどね」


悪戯に笑う彼の、そんな表情はなかなか見れるものではありません。
いつだって不敵に、狡猾に、本心を隠した柔らかな笑みを浮かべる人。

彼の指が私の中心を縦に撫でれば、そこからはくちゅりと粘着質な音がしました。
あまりの羞恥に思わず耳を塞いでしまった私ですが、彼は困ったように私の耳を塞ぐ手のひらを優しく取って、口を開きます。


「耳を塞がないでくれ、僕が君を呼ぶ声が、聞こえないだろう」


掠めるようにわざと滑らされた彼の指がわたしの秘豆を刺激し、私の頭の中はチカチカと瞬きます。


「ん、あ、!」

「…君は、魅力的な女性だ」


力の込められた彼の指が私の中へと侵入していくのを直接感じました。
きゅうきゅうと力が入っているのに関わらず、そこはぬるりと彼の指の侵入に歓喜しているようです。
この感覚には、いつまで経っても何度経験しても慣れません。

それでも彼は私に対して聞くことをやめず、私の羞恥する態度すら楽しんでいるようでした。

ぐるりと私の胎内で回された指に、ちゅぷ、と背筋を心臓に向かって走る電流を感じます。
彼はそんな私を見つめながら、きれいな指をゆっくりと抜いて、自らの着物を肌蹴ました。


「君は魅力的な女性だ、だからこそ、きっと僕がいなくなっても、引く手数多だろうね」

「そんな、名には、あなただけなのです」


情欲の灯る、獣のような瞳。
しかし彼の眼差しはいつだって殊更に柔らかく優しい。

広げられた私の両足の間に座す彼は、ぴたりと私のとけている部分に自らのいきり立つそれを押し付け、小さく息を吐きます。

いつもと同じなのに、いつも彼はひとつになる間際とても、とても悲しいことを言うのです。


ぐ、と押し込められるその感覚にだって未だに慣れないのに、いつか慣れてしまうのでしょうか。
できることならずっとこのまま、彼に抱かれることには慣れたくないと思うのです。

いつだって、新しい彼を感じたい。
だって私には、彼しかいないのです。彼が、彼だけが、いいのです。


息苦しさを感じながらひたすらに彼の名前を呼ぶ夜半。
彼は、私の名を呼びながら、私の胎内へと精を吐き出しました。


肩で息をする、彼の銀色のかみの美しさは、他に類を見ません。
それもきっと、当たり前のことなのでしょう。


銀色の、神さま。





わたしだけのかみさまへ





「例えば、君に伝染ってしまえばいい、と、僕が言ったら、どうする?」

「…どうぞ、名をお供に、」


繋がったままの体勢で私を抱き締める彼の細い背中。
障子越しの月明かりが彼の白い背中を淡く照らしています。


「今は、お眠りください」

「そうだね、…このまま眠ったら、夢の中でも君に会えそうだ」




by six.



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