その夜は無礼講。勝ち戦の後の宴に浮き足立つ野郎共に自ら酒を注ぎながらその働きを褒める。
そうしながら目をやった縁側では、小十郎と名が隣り合って酒を飲んでいた。

小十郎と名は恋仲だ、と思う。いや、正確には恋仲ではない。恋し合っているという表現のほうが正しいか。
あの二人は自らの恋心を伝えるTimingってモンを完全に見失ってやがる。
その証拠に小十郎が名とどうこうした、っつー話は一度も聞いたことがねぇ。
例えば酒の入ったこんな夜には、小十郎も積極的になれるのだろうか、そして名は幾分柔らかくなるのだろうか。

問題と言えば、名が少しばかり鈍いことだけだろうが。

俺は二人が背を向ける障子越しに聞き耳を立てようと立ち上がった。が、そこには既に先客がいた。


「…Hey.喜多、何してやがる」

「不肖の弟を見守っております」


なるほど。確かにこの年になるまで身を固めてねぇ弟がいて、しかもあからさまに好き合っている相手が近くにいるにも関わらず成果をあげられねぇ、とあっちゃあ姉としては不安だろう。いろいろと。

その時、障子越し、縁側から小十郎の控えめな低い声が聞こえた。


「…宴が終わったら、少し外を歩かねぇか」

「なんでですか。この寒いのにー!」


一刀両断。
小十郎、もっと押せ!名は鈍いんだ、そんな誘いじゃきっと一生かかっても伝わんねぇ!


「…じゃあ、宴が終わったらお前の部屋に行ってもいいか」

「いいですよー。あ、でも今わたしの部屋ごちゃごちゃなんです。着物の整理してて!」


名!お前はもう少し空気を読め!
もっと状況と言われた台詞を理解しろ!


「じゃあ俺の部屋にでも来るか」

「えぇー!こんな寒い中冷たい渡りを歩きたくないです!小十郎さまのお部屋、遠いんですもん」


名…!小十郎がこんだけ食い下がってんだ、わかるだろう!わかってやってくれ頼むから!
隣では喜多も俺と同じように両手を膝の上で握り締めている。


「ゆっくり二人で飲みなおすってのはどうだ」

「これ以上飲んだら明日のお仕事に差し支えますよー!」


少しの沈黙を挟んで、小十郎が立ち上がる気配と小さなため息が聞こえる。
「新しい酒持ってくるから待ってろ」と零すその声には明らかな落胆が滲んでいる。
二人は近すぎた。だからこそ今更口にするのも気恥ずかしいんだろう。しかしその小十郎が、今夜、やっと!
やっとそれを滲ませたと言うのにこの女は!

そんな俺の気配を察知したのか、縁側を歩く小十郎の姿が襖を取り払った隣の部屋に入ってきたのを確認して、喜多が立ち上がった。


「名さま、この喜多めが男と女の機微について教えて差し上げます!」


Good job!さすが小十郎の姉であり俺の乳母だ!


「機微ですか」

「えぇ、確かにきちんと伝えない小十郎が悪うございますけど、」

「だって、」


ちらりと盗み見れば、名の隣には空いた酒樽が転がっている。
…こいつ、酔わねぇのか…?

名はことりと首をかしげて、それはそれは可憐に笑って見せた。


「お酒の力を借りた、だなんて、言わせたくないでしょう?」


閉口した喜多に、背後から小十郎が追加の酒を持ってきた。


「…名、どうしたんだ」

「いえ、喜多さんに飲みすぎですよって言われてたの」





裏表ラバーズ





例えば鈍い鈍いと信じて疑わなかった女の、狡猾でしたたかな「女」の部分を目の当たりにした場合、どういう反応をすればいいのだろうか。

名に詰め寄る体勢のまま固まる喜多を尻目に、小十郎は追加の酒を名の盃に注いでいる。





by six.



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