月が翳って、灯りなしでは目の前にいるはずの人の輪郭も視線だけでは辿れない。
そんな暗い空間で、彼は普段では考えられないほどの熱さを持って私に触れた。


「名、てめぇは、俺から離れるか」

「いいえ、最後のときまでお供致します」


もう何度も告げてきた芸のない台詞にさえ、肩をびくりと震わせて喜ぶ彼。
私の膝に甘えるように額を擦り付けるその髪に指を通したら、暗くて見えないはずの彼の表情が柔らかく綻んだような気がした。


「なぁ、いいか」

「、はい」


それまで私の膝を、何か大切なものを探すかのように撫でていた、大きなそしてかたい手のひらが私の着物の袷の間に侵入する。
下から掬い上げるように私に唇に触れた柔らかい感覚に瞼を落とす。
差し込まれた熱い舌先に優しく噛み付いたら、彼は音を立てて私の唇を舐めて離れた。


「名、名、」

「…はい、名はここにおりますよ」


私の首筋に唇を添えて音を立てながら下がっていくその頭を両手で抱きかかえて、彼の額に唇を寄せる。
彼の手のひらが袷から私の胸に直に触れる。
彼の手のひらは冷たい。


「、っ」

「…悪ィ、冷たいか」


その冷たさに一瞬背筋を強張らせたら、大きく開かれた袷に寄せられていた唇が離れ、酷く不安そうな声色で問われた。
問う、と一言で言えるほどの淡白な台詞ではなく、幼子が母親を探しているような、大切なものをなくしてしまったような、そんな底なしの不安が滲む声色。

私はもう一度彼の頭を抱きかかえる腕に力を込めて、彼の旋毛に唇を寄せる。

人差し指で辿るように私の胸の頂に行き着いた彼の手のひら。
普段とは打って変わって柔らかく控えめにその形を変えていく手のひらが、じわりと温かさを取り戻すのを感じながら、私は彼の頬に唇を寄せて小さく息を吐いた。


「ん、」


ちゅ、と軽い音を立てて唇が寄せられた頂に腕を震わせれば、彼はいとも容易く私の身体を後ろへと押し倒した。
温い舌先がそれを優しく嬲るように形を変える。
時折微かに立てられる歯に声をあげれば、彼は私の着物の裾を暴いて、爪先からふくらはぎ、太股へと手のひらを滑らせる。


「俺は、ここに生きてる」

「はい、…ここに」

「ここに、いるんだ」

「これからもずっと、貴方は生きていくんですよ」


人差し指が陰核をかすめた瞬間に跳ねた肩。
彼は胸を執拗に攻めながら、指先を蜜壷へと差し入れた。


「濡れてんな」

「…政宗さまを、受け入れるために」

「俺を、」

「…っあなた、を、」


ちゅぷ、と淫猥な音がしたと同時に内壁をぐるりと擦られて浮いた腰。
彼はそれを待っていたかのように浮いた腰の下に自らの膝を差し込んで、そして引き抜かれた指に、ぬるりとしとどに濡れそぼったそこに宛がわれる熱。


彼が息を吐いて腰を進めれば、私のそこは彼を受け入れるために収縮して。
それを彼は確認するように浅く出し入れを繰り返す。


「俺は、ここにいる」

「政宗さまは、この国に必要な、方、なのです」

「俺が、?」


ぐ、っと押し付けられた彼の腰に、最後まで押し込まれた質量と共に小さくくちゅ、と鳴くのを聞いて。
そして彼は腰を大きく引いて、また大きく押し込む。


「俺は、今、名ん中に、いる」

「ん、あ、はい…っ」


揺れているだろう視界も、こんな暗闇の中ではほとんど無意味だ。
かと言って瞼を落として快楽にのみ身を委ねてしまえば、彼は一人になってしまう。


ぐいぐいと子宮に押し付けられるそれを感じながら私の首筋に浅い息を落とし続ける彼の頭を撫でてやる。

律動の中で、微かに彼が微笑み、震え、涙を流す錯覚を見る。





この夜は君に全てあげるから





「ま、さむねさまっ!ん、ふあ、!」

「は、…、」


私の首筋に押し付けられる彼の額。
そして彼は達する直前、いつもと同じ台詞を胸元に吐き出した。


「名、名…、俺は、名から産まれてきたかった」




by six.



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