「Are you ready ?」

「No.」


ニヤリとシニカルな笑みを浮かべたまま固まる君主を見ながら、私はもう一度ダメ押しの「No」を口にした。
異国かぶれの君主の為に異国語を勉強した私なんて、お傍で一緒に固まる片倉様よりずっと褒章ものです。


「主に向かってその口の利き方は、」

「主だったら何でも許されるなんて道理聞いたことがございません」


ぐう、片倉様がたじろいだように揺らめく足元で、足袋の白が青々とした畳に擦れる音が聞こえます。
新しく畳を代えたのは知っているけれど、この白の畳を全て代えたとなれば一体いくらくらいかかったのかしら。


「Ha!…そんなに、俺の夜伽は受けられねぇか」

「Yes,of course!」

「……」


何度だって言って差し上げましょう。
私は貴方の忍びで、手足にだってご命令とあらばなりましょう。
あぁ、でも手になるとは言っても勘弁していただきたいわ。


「ですからね、発散したいのならご自分の右手でどうぞ」


笑って言った私の目の前では、主が「慎みはどこに行った」と嘆いてらっしゃいます。
何を言うのですか、幼きころよりこの国にお仕えしてきたこの私、育ち方に問題があるとすれば全てあなた方のせいでしてよ。


「…Giving up.」

「お分かりいただけたようで何よりです」


両手をあげて片眉を下げる主。ご理解いただけたのは何よりですが、一国の主がそう簡単に降参するのもどうかと思うのだけれど。
怪訝そうに、お傍に控える片倉様が口を開きます。


「しかし、何故そこまで嫌がるんだ」

「あら、だって主がお相手だと、仕事で抱かれる心積もりでは失礼でしょう」

「…いいじゃねぇか、それなら女としてお相手すれば」

「女として抱かれるのは、貴方が最初だと決めてありましてよ」


ごとり、主の手から落ちたお湯呑みがゴロリと畳に転がって、私の膝に当たって止まりました。
チラリと伺う件の男の表情は固まったまま、というより身体も固まったまま。
主のお傍で立ち尽くすその男は、果たして右目と呼ばれるに相応しいのでしょうか。


「片倉様が貴方にお仕えしている限り、私はこの奥州の為に尽力してみせますわ」


お湯呑みを拾い上げて、丁度主との間に置く。立ち上がれば瑞々しい芳香が広がります。
狼狽したままの片倉様に、「信じられない」というような表情でぽかんとする主。どうでもいいけれど、そのお顔は少し間抜けだと思うわ。


「早く拭かないと折角の畳が染みになりましてよ」

「お前ぇなぁ!」

「お前じゃなくて"名"ですわ、片倉様」

「そうじゃなくて、」

「ご理解いただけないのなら今回の件のお詫びに、腹でも切れば良いのだわ。あなたが!」





Hello , ECSTACY




「…あー、何だ、まぁ、悪かったな、小十郎」

「何故政宗様が謝られるのです!」

「いや、だってお前、顔赤いし」




by six.





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