常日頃、色欲や睦事などとは無縁の顔をしたその人。
禁欲的とも言えるその毅然とした態度を、彼が人前で崩すことはまずなかった。
大袈裟に言うならば潔白な巫女のような。性別を越えた品格を感じさせる男だ。
そんな彼の素肌を、私は今目の当たりにしている。
女性がむやみに肌を晒しているかのようななめまかしさに、何故だか私の方がいけない気持ちになってしまう。
いつだってきっちりとした装束に身を包んでいる彼の、無防備な上半身が私の隣で月明かりに照らされていた。
細く美しい輪郭が闇の中にすらりと浮き立つ。
私はその様を隣から見上げつつ、同じく素肌の肩を夜具の内で震わせた。
「冷えたか」
「いえ。少し、身が引き攣って」
「娘の体には随分と過ぎたか。加減を忘れた」
「大丈夫です。なにしろ初めてのことですから、比べるものもありません」
今日まで娘の体だった私には、与えられた行為の中にどれくらいの気遣いと無茶があったのかなどはわからない。
ただ初めて知る感覚に戸惑い、それ以上に初めて見る彼の表情に驚いた。
毅然たる君主、であったはずだ。
どうやらそれは少し違っていたようだ。
「呆気なく、許し過ぎたでしょうか」
「なんの話だ」
「殿方は、多少拒まれた方が気も乗ると聞いたことがあります」
「…見た目によらず耳年増なようだな。だが、そのような下賎な噂真に受けずともよい」
「はぁ。人により嗜好というものがあるのですね」
単純な好奇心に任せ尋ねた問いの、答えに呑気に感心していると、元就様はフッと目元だけで笑んだ。
「我は思い通りにならぬ駒は好かぬ。女もまたその内よ」
相変わらずの冷たい表情は、軍議や合戦の最中の非情なそれと変わらないように見えるが。
気に入らない女と不用意に戯れるほど、理性の及ばぬ人ではないことを知っている。
身を起こしていた彼はゆっくりと体を傾け私の首の横に掌を付いた。
その拍子にするりとあらわになる、男にしては細い腰の曲線に目眩がする。
しなやかな腕が蒲団の下に忍び込み、肌の柔さを確かめるように少しずつ這い上がる。は、と息が漏れた。
見上げた先の双眼は、薄い刃物で慎重に切り抜いたように、繊細で美しい。兜をとった彼の顔は危う過ぎるのだ。
柔らかい髪の毛がさらさらと彼のうなじや首筋に流れているのを見て、私は思わずそれを指で掬った。
主の身体に自分から手を伸ばすなど普段なら考えられないが、特に咎められることもなく、そのまま肌と肌はしっとりと重なった。
幾通りの夜も
越えて行けましょう。
その手が私に触れる限り。
by seven.