声が、枯れる。

絶え間なく部屋に響く水気の混じった音。
同時に聴覚を奪うのは、耳元で跳ねる低い声。


「は、名、」

「ん、う」


何かから逃げ出すように辿った指先はいつの間にか布団から畳の上へと。
私に覆いかぶさって悲痛とも取れるような表情を浮かべる彼の額からつうと汗が一滴。

彼が穿ったままの下半身が、あつい。

彼は畳を半ば引っかくような形になっていた私の指先に気づいたのか、そちらへと視線と腕とを動かす。

くち、と下半身が悲鳴をあげた。


「あ、だめ、だめよ、うごいちゃ」

「…るせぇ」


低い、ひくい声は私に否とは言わせない。
でもそれでも私に触れる手のひらは優しい、だから、愛されてると、そんなありえないことを思ってしまう。


「正直に言ってみろ」


先ほどまで堪えるような表情だった彼が、今度は余裕を体現してニヤリと笑う。
正直に、なんていわれても、今自分の口から出るのは声にならない声ばかり。


くちゅくちゅと淫猥な音が響く。
耳を塞ぎたい衝動に駆られて目の前の彼の顔から思わず目をそらせば、彼は奥まで繋がっている体勢のままで私の唇に噛み付いてきた。


「…口、開け」

「ん、んや、ぁ」


抱えられた左脚が、彼が動くたびに揺れる。
あつい息が私に命令すれば、私はいやいやを繰り返しながらもその声に従ってしまう。

どうしようもない。

放り出されていたはずの手のひらは彼の右手に捕らわれて離してくれない。
ふ、と左足の拘束がなくなったかと思えば、彼は左手の指を二本、無遠慮に私の口に突っ込んだ。


「うう、あ」

「噛むなよ」


このひとは私に何をさせたいの。
微かな律動に自然揺れる腰、意識とは切り離された本能。

無骨な指先を噛まないよう、指に舌を添えてもうほとんど泣きながら彼の顔に視線を戻す。

破顔一笑。
彼の柔らかな微笑みに弛緩した身体。


「っあ!」

「、っ」


それを待っていたかのように再開された激しい律動。
響く粘着質な水音と共に増えたのはパンパン、なんていういやらしい皮膚と皮膚がぶつかる音。


「あ、だめ、やあ!」

「く、あ、足んねぇ、よ!」


深く深く抉られてしまいそうだ。
強くなった語尾に一瞬気を取られたかと思えば、最奥を目指して一気に突き上げられた。


「あああ、ん、や、ぁ」

「、もっと声、出るだろ…」

「こじゅ、こじゅ、ろ、」


どくんと脈打つ下半身。
挿し入れられたそれがひと際大きく怒張するのを胎内で感じる。


「だ、めぇ、おかしくなっちゃ!」

「なれよ、もっと」


荒く浅い息使いが私の前髪を揺らす。
口の中に入れられた指はどろどろで、塞ぐことのできない口の端からはだらしなく涎がたれている。


「う、あ、ごめんなさ、どろどろで」

「あぁ?」


すっかりふやけてしまった彼の指。
この指が最初私の身体を優しくほぐしたのだと思えばすぐに熱が顔に集まる。


「どろどろって、ここが、か?」


ぬるりとした違和感に身を震わせる。
繋がった部分を悪戯になぞる指先。

その指先が時折陰核を擦っていく。


「ひゃあ、あ、あ!」

「、いい声だ」


掠れた声。
満足そうな口許。


「ふう、あ、もう、もう!だめ!」

「ッ、あぁ」


それを合図にして両脚を抱え込んだ彼は、緩急なんて言葉知らないみたいに、ただ絶頂を目指してうごく。
ガクガクと揺れる視界の中で彼は確かに微笑んでいた。


「あ、あぁ、…!」

「う、っく」


内壁を叩かれる感触に目を細める。


「、ガキでもできちまえばいい」


酷い台詞を吐かれたような気がしたのに、彼の表情があまりにも悲しくて。
私は汗ばんだその背中を抱きしめるしかできなかった。





二人を繋ぐ





彼は事が終わった後でも決して私に背を向けない。
汗ばんだからだ二つ、ぴったりと寄り添って。

あぁ、いっそ友人なんて垣根を越えて、ひとつに融けてしまえばいいのに。


枯れた声で呼ぶのは、目の前で疲れたように優しく笑う男の人、これまでもこれからもずっと友人。それなのに、どうしてだろう。もう、限界が近い気がしてるの。



by six.



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