「女って生き物はね、寂しい時に優しくしてくれる男には無条件に好意を抱くのよ」


いつかの彼女はそう口にした。そんなことを知ったところでこの気持ちはどうにもならないのだが、何故かいつまでも記憶の隅にこびり付いて離れない。その理由も何となく分かるからやり切れないことこの上なかった。


「…佐助、降りてきなさいな」
「あちゃーバレてた?」
「よく言うわよ」


気配は消してない。だって、気付かれたかったから。何故。彼女だから


「こんな遅くにどうしたの」
「えー…夜這い?」
「はいはい」
「うそうそ、任務の帰りー」


そう言って彼女の横に音を立てずに降り立つ。同時に彼女はすっと立ち上がって中庭に面した襖を開けた。月の光が眩しい。


「…彼が」
「………」
「彼がね、死んだの」
「…うん」
「最期は笑ってたかしら」


笑ってなんかいなかった。悔しそうに目を細めて、俺の名を呟いたんだ。知ってるよ全部。だって、俺が殺したんだから。これしか方法はなかった。

彼女の肩が小さく震えている。いつも気丈な彼女だから、泣いてるところは初めて目にした。しかし何故か罪悪感は無い。あるのは満足感と至福の気分。


「…笑ってたさ、きっと」
「……っ」
「アンタが泣いたら、アイツもきっと悲しむよ」



だから、笑って




後ろからそっと抱きしめる。こんなにも彼女は小さい肩をしていたことを知った。きっとあの男は幾度もこの肩を抱いたのだろう。そう考えると胸のざわめきが次第に大きくなって、無意識に彼女に触れる腕に力が入る。彼女は苦しそうに身を捩った。

こうすれば彼女が悲しむことも、何も解決しないってことも解っていた。でも自分の内側から沸き起こるこの感情を知らない俺は、他に術を持つわけもなく。




by eight.





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