「…何をしてる」

「夜這いですか」

「俺に聞くな」


まだまだ夜は長い。夜はこれからなんですよ、楽しみましょう。そう続けたら布団の中で固まっていた目の前の人の眉間に、不機嫌そうに皺が寄った。


「小十郎さま」

「お前は、もうちょっとこう、情緒とか慎みとかをだな」

「だって政宗さまが」

「政宗様が?」

「"とりあえず押し倒せ、Good luck!"って。」


明らかに脱力した布団の中の小十郎さまがもそりと布団を剥いで起き上がった。酷く緩慢な動作。そして上半身を起こした小十郎さまは、あたしに向き合うなり一睨みきかせてため息を吐いた。


「失礼ですよ。乙女を前にため息なんて」

「誰が乙女だ、誰が」


頼むからゆっくり寝かせてくれ、小さく懇願してまたため息。大きな身体が小さく揺れるのを見つめながら、政宗さまにどう報告したものか思案する。


「夜這いがダメだと、ハードルあがっちゃうんです」

「……何の話だ」

「夜這いの次は湯殿乗り込み、次が怪我した小十郎さまを無理矢理、」

「わかった、それ以上言うな」


小十郎さまはブツブツと何か口の中で悪態をついている。たぶん政宗さまへの文句とかだと思う。でも、いい加減寒いな。


「ふ、えっくしょ!」

「…薄着だからな」

「だってすぐに小十郎さまが暖めてくださると思って」

「………」

「小十郎さま」

「…なんだ」

「丁度おあつらえ向きに布団があって、目の前にはおいしそうな据え膳があるんですよ」

「自分で据え膳とか言うんじゃねぇ」


少しだけ着崩れた寝巻きがいろっぽい。そしてつやっぽい。
枕もとの刀でさえも、なんてこの空間にお似合いなんだろう。

だからね、そのあたたかなお布団の中であたしを抱きしめてよ。


長く吐かれたため息に少しだけ期待。
でも。


「とりあえず、部屋に戻れ」

「えー!」

「いいから、寝ろ」

「…これが成功しなかったら罰ゲームなのに」

「罰ゲーム?」

「政宗さまが、"成功しなかったら罰ゲームだぜ?予行練習につきあってやるよ"、って」

「…予行練習」

「床の」





Missing World !





襖に手を掛けて横に滑らせる。
廊下では、襖から3歩分の距離を開けて会話を聞いていたらしい政宗さまが、"俺はそんな話してねぇぞ"と言う目であたしを見つめている。それに気がつかないフリをしながら、背後からかかるであろう小十郎さまの声にニヤリと笑った。


「……名、」


じくりと身体の芯を揺さぶる低い声色。
小十郎さまはご存知かしら。
恋と戦争では、手段なんて選ばないものなのよ。


あたしを見つめる政宗さまの表情は、恐ろしいものでもみるようなものに変わっていた。





by six.



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