冷たい風が頬を切る。
森をうっすらと照らす月明かりの中に、しなやかな影を見つけその後方を追っていた。
すると目の前の影がふいに揺らぎ、チッと嫌そうな舌打ち。
「あ、気付いてた?」
「…しらじらしい」
「こんな時間に会うとは、竜の旦那も随分と忍使いが荒いねぇ」
茶化すように言えばこれまた大層うっとおし気な声を返される。
「無駄口たたくようなら、任務の妨害と見なして排除するわよ?」
「まあまあ落ち着けって。どうせ目的は越後の検分だろ?」
俺様も同じ、そう言って彼女の隣に並ぶが、すげなく睨み返されてしまった。つれないねぇ。
「それなら尚更離れなさい。越後の次は甲斐なんだから。なんなら今ここで始末してやってもいいのよ」
その方がきっと政宗様だって喜ばれる。
そう言ったきり俺の方を見もしない名の横顔は、青白い森の中で妙になめまかしい。
「…くのいちの忠誠心ってのは、男の俺にはちょっと解りかねるね」
「アンタには関係ないでしょ」
ほら、女はみんなそうやって似たようなこと言うから困る。
「…大体、そう違いもないと思うけど」
呟いた名の頬がわずかに赤いのは寒さのせいか。
「その方のためなら苦も苦じゃない。そう思えるからアンタだって、こんな夜中寒い中、駆けずり回ってるんでしょう?」
まあ、それはもちろんそうかもしれない。が。
「俺様、職業的忍だからね」
せっかく会ったんだし、ちょっと挑発。
「くのいちの放つクナイってのはさぁ、もっとこう重ーい何かが篭ってる気がするんだよねぇ」
「……」
「女の意地っていうかさ、だからアレは傷の直りが遅、おっと!」
「言ったでしょ!つぎ無駄口叩いたらって…!」
ビュンとわかりやすい殺気を纏い飛んできたクナイを難無く交わし、すかさず名の後ろを取る。
「忍が感情的になってどうすんの」
こんなに簡単に煽られるようじゃ、まだまだだねえ。
「俺じゃなければ死んでるぜ?」
首筋をトントンとクナイで叩いてやれば名は最初は悔しそうに、やがて呆れたように俺を見上げた。
「…あんたくらいよ。こんなくだらない軽口叩く忍」
「ハハ、かもな」
言い残して、傷ついた雀のような素早さで飛び立っていった彼女の後ろ姿に呟く。
「ま、俺様も人のこと言えないんだけどね」
干渉、鑑賞、感傷
いつか刃を交える時が来たら、明かしてみようか。いろいろなことを。
by seven.