朝のこと。
外から微かに聞こえる鳥の鳴き声に目を覚まし、それでも布団から出るのは惜しい、とぼんやり思いながら何となしに寝返りを打った。

そこには、ここにいてはならぬ人間が安らかな寝顔を無防備に晒していた。


「…っ?!」


すうすう、穏やかな吐息が俺の首筋にふわりとかかる。
部屋の外からは朝特有の忙しさに追われる女中の足音。

目線をずらせば、呼吸に合わせてゆっくりと上下する布団のふくらみが目に入る。
布団の上からでもわかるその柔らかな肢体に、一度どくりと身体が跳ねる。


「な、何を、」


言いたいこともまとまらぬ頭の中で、段々と覚醒する思考。
もしもこの場に人が入ってきたら。

それは誤解を生むことに他ならぬ。
であれば、背に腹は変えられぬ。


「佐助!」

「はいよっと」


しかし、この状況を目の当たりにした佐助は、そこはかとなく「あーぁ」という視線で俺を見る。
なんだその目は。俺は何もしてないぞ。


「…ずっと見ていたのではないのか」

「俺様そんな野暮じゃないって」


すうすう、幸せそうな寝顔。
柔らかそうな頬は緩んでいる。


「…何もしていないぞ」

「それはそれで問題あると思うんだけどなー」

「…ん、」


びくり、無意識に肩が震える。
恐る恐る目線を佐助から隣で眠っていたはずの女子に移せば、女子は眠気眼を緩慢な動作で擦りながら、小さく口を開いた。


「おはよう」


普段よりも低く掠れた声。
とろりと融けてしまいそうな瞳は未だに眠そうに潤んでいる。


「…名殿!」

「ゆきむら、すごかったねぇ」

「?!」


勢いもそのままに佐助を振り向く。
佐助は俺と目を合わせない。
その表情にはやはり「あーぁ」と書いてある。
忍びがそんなことでどうするのだ!


「…いいんじゃん?お似合いだよ、二人とも」


待て、待つのだ。今の台詞、俺の目を見て言ってみろ。

未だに状況を飲み込めていないのか、名殿はふにゃりと笑って布団から身を起こす。
起こす、おこ、


「なななな何故!そなたは、!」

「幸村もよ」


がばり、布団を剥ぐ。
な、何故俺の寝巻きが足元に丸まっているのだ!
俺の枕元には彼女のものと思われる寝巻きがくしゃりと丸まっている。


「…旦那、サイテー」


佐助が部屋から出て行く背中が、心なしか震えているように見えたのは俺の勘違いだろうか。





my cheerful girl





「そ、某は、」

「うん、何もしてないよ」

「?!」

「佐助はきっとわかっててあたしに付き合ってくれたのね」

「何故!」

「少しだけ自重してあげたのよ。やさしいでしょ?」


……助けてくだされお館様ぁぁぁぁぁ!!!

廊下からは、俺を起こしにきたのだと思われる足音が聞こえる。逃げ場はない。



by six.



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