「さよなら」
にこり。
春もほころぶ柔らかな微笑みと、それに見合わない台詞。
「…また、だろう」
久々に会ったその別れ際にこれはいくらなんでも酷いだろう。
変わらずに笑うその表情に、こちらも負けじとため息で返す。
「それはごめんなさいね」
「謝る気がないなら最初から言うな」
再度ため息で返事をすれば、彼女は一瞬だけ小さく驚きの視線をこちらに向けた。
「…なんだ」
「拗ねるとこ、初めて見ました」
ほんの少しの沈黙を揺らすのは、そろそろ冷たくなってきた空気。
何気なく目に付いた彼女の薄い肩が微かに震える。
「もう帰れ」
「片倉様がお先にどうぞ」
「……」
いつもこうだ。
本日何度目かもわからないため息で返せば、彼女は今度はふわりと困ったように笑ってみせた。
「ちゃんと言ってくださればいいのに」
「…何をだ」
「寒いだろうからって」
今度、驚きの表情を浮かべたのは俺のほうだった。
「…片倉様、そんなで戦では大丈夫なんですか?」
「そんなとは何だ」
「だって、思ってることが全部顔に出ていらっしゃいます」
「あのなぁ、戦とお前に会ってるときが一緒な訳ねぇだろう」
「あら嬉しい」
にこにこ、と先ほどまでに困ったような表情がすっかり影を潜めて、今度は悪戯な笑みに。
これだから女って生き物は。
「…わかった、わかったからさっさと帰れ」
「こんなに寒いんですもの、折角だから泊まっていけばよろしいのに」
「………これだから、女って生き物は…」
How do you do?
「それで?お帰りになるの?」
「女にそこまで言われて帰れる訳ねぇだろ」
「やっと伝わったようで何よりです」
「……覚悟しとけよ」
「あら、覚悟するのはそちらでしてよ」
「あぁ?」
「年のせいになんてさせませんわ、小十郎様」
「…」
by six.