どうしていいか分からない、暗闇のような日々のなかで唯一輝くのはあの人がいた頃の思い出たちただそれだけなんだ。

(戻りたい…絶対に戻れないって分ってるのにね。)

Love Ya




ことの始まりが『なに』だったのかは分からない。些細な口論がエスカレートして気がついたら彼に頬をぶたれていた。
何があったか分からずにぽかんとした私に、なおも彼は襲い掛かってきたのだった。

『オレに逆らうオマエが悪いんだ。』

そう言って、泣いて謝る私を何度も殴った。

それは嵐の様な時間で、その暴風が収まると今度は我に返ったのか私に謝るのだ。『ごめん。もうしないから』とぽろぽろと涙を零しながら。

最初は私も言い過ぎた節があったかもしれないと思い、その謝罪を受け入れたし私も『ごめんね』と謝ってことは済んだ。


たった一度だけだろう。いつもは、本当は優しい人だから。

そう信じていた私の気持ちはそのあとすぐに裏切られることになった。

少しでも自分の思い通りにならなかったら、叩く蹴る殴るのフルコース。

彼の気が済めばボロ雑巾みたいにクタクタになった私を優しく抱きしめて何度も何度も謝る。

『このままじゃ私は殺される』

そう思った私は別れを切り出した。だけど、その私の行動は彼を思わぬ方向へと向けさせたのだ。

「別れるだって…?ふざけんなよ!!誰が別れてやるかよ!!」

そう言っていつもと同じように暴力を振るう。…この嵐が通り過ぎればきっと彼は別れてくれる、そう自分に言い聞かせて耐えていたのに。

「なぁ莉奈。オレと別れたいんだろ?…だったら、方法が一つあるぜ。」

その言葉に顔をあげた瞬間、私の眉間ぎりぎりに突きつけられていたのは台所の包丁だった。


・・・別れなきゃ殺されるどころじゃない。この人と離れると言う選択肢を選べば『死』が着いてくる…そう悟ってしまったんだ。


***************

ずっと連絡くれていたのに、返事できなかった。

大好きなハルお姉ちゃんに、京子ちゃん。

ごめんね、今2人に会ったら私もっとおかしくなりそう。2人はいつも私にとってもとっても優しいから。

そう思っていた頃、ハルお姉ちゃんが会社まで私を訪ねてくれたのだった。

「莉奈ちゃん、最近どうしてるんですか?」

小さな頃から変わらない私を優しく呼ぶ、ハルお姉ちゃんの声に今までガマンしていた涙の堤防が決壊してしまったかのようにとめどなく涙が溢れてきた。

「お姉ちゃん…もうどうしたらいいかわからない。」


そう言って相談した私をお姉ちゃんは優しく抱きしめてくれた。

そして、京子ちゃんとイタリアに行く予定だから一緒にいきましょう、そう誘ってくれた。

イタリア。

そこには私の楽しかった思い出を彩る人々がいる国。

優しいツナくん
いつも明るい山本くん
頼りになる了平お兄ちゃん
泣き虫だったランボくん
無駄話は嫌いだけどちゃんと話をきいてくれる雲雀さん
物静かだけど可愛らしい雰囲気の髑髏ちゃん
神出鬼没であんまり関わりはなかったけど、髑髏ちゃんのお話の中によく出てきてた骸さん

そしていつもブツブツ文句を言うクセに私の人生の大切なときに傍にいてくれた
獄寺くん。


みんなは遠い空の向こうで笑ってるかな?

『いつでも連絡してこい』そう言ってぶっきらぼうに渡された電話番号。

何度も電話しようと思ったんだ。
だけど、指が震えて上手くボタンが押せなかった。

何を話せばいい?

久しぶりって言って、『誰?』なんて言われたらどうしよう…なんてネガティブな事を考えて何度も思いとどまるんだ。

本当はね、分かってる。

そんな事言う人じゃないって。

『莉奈だろ?久しぶりじゃねーか!!』

そういって電話の向こうで笑ってくれるって、知ってる。

だけどね…

その声を聞いたら、好きだって気持ちが溢れてきそうで怖いの。

『ツナくんの立派な右腕になる』

出会ったときからイヤって言うくらい聞いてきた獄寺くんの口癖。だから、私はアナタの邪魔になるようなことはできなかったんだ。
無理矢理忘れようと、恋をして…結果がコレなんて笑いたくなるくらいおかしい話だよね?



『おい!莉奈!!』

殴られたり蹴られたりしたけど、頑張って玄関の扉を開いて携帯だけ握り締めて家を飛び出したあの夜。

ハルお姉ちゃんへかけた電話に途中で出たのはあの人で、私の名前を呼ぶ彼の声を聞いて気が緩んでしまったのか『もう…もう嫌だよ』なんて絶対にいいたくない言葉を口にしてしまったんだ。


明るくて泣かない、いつも笑ってる子。それがきっと獄寺くんの中の『鈴木莉奈』だ。いつかもし会った時笑って話せるように、こんな弱い部分見せたくなかったのに。

不器用なあの人はきっと誰にも言わずに人知れず私を心配するだろう…凄く優しい人だから。

『おい…!!』

何かを言ってくれようとした獄寺くんの声は追いかけてきた彼氏に携帯を取られたせいで聞こえなくなった。


「どこに電話してるんだよ!!なぁ…莉奈お願いだからオレを1人にしないでくれよ!!オレには莉奈しかいないんだから!!」

私の携帯を地面に叩きつけ、笑いながら首を絞める彼を見ながら、死んじゃうかもしれないけど最後に獄寺くんの声が聞けてよかったな…なんて思ってしまった私は不謹慎な女なんだろうな…なんて薄れていく意識の中で思ったんだ。


(あなたの中の私は、ずっと笑っていて欲しかった)





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